背景
パートナーによる虐待(家庭内暴力)は世界中で見られるものである。この虐待には、強制的な束縛、また身体的、性的、経済的、感情的あるいは経済的虐待が含まれる。特定の訓練を受けた人々(アドボケイトと呼ぶ)は、虐待を受けた女性を積極的に支援し、安全な計画を作成し、虐待を減らすための対策を講じ、虐待を受けた女性が地域資源を利用できるようにする。このことをアドボカシーと呼ぶ。アドボカシーは多くの形態を取りうる。
レビューの論点
どのアドボカシー介入が、虐待を受けた女性をどのような状況下で救済することができ、そしてどのような女性が恩恵を受けうるのかを理解しようと試みた。このことをリアリストアプローチという。大抵の場合、我々は単純な測定や観察に基づいて、物事がどのように起こるのか(例えばアドボカシーがどのように機能するか)に関する表面的な知識を発展させることが多いように思われる。一方で、リアリストアプローチは、異なる条件下で異なる効果を探求することによって、より深いレベルで実際に何が起こっているのかを理解しようとするものである。
方法
我々は2019年1月までの世界中の関連する研究の科学文献を検索した。
主な知見
我々は15の国で実施された98件の研究を見つけた。88件のコア研究のうち、37件の研究がアドボケイトに自身の見解や経験について尋ね、7件の研究が虐待を受けた女性に対してアドボカシーについて尋ねていた。(そのうち2件はスタッフにも尋ねていた。 )他の44件のコア研究はアドボカシーがどのように機能し効果をもたらすのかを理解するのに役立つものだった。我々は、他に10件の研究をリアリストアプローチにふさわしいとして含めた。これらの研究は、元の基準には合わないが有用な情報を追加するものであった。このうちランダム化比較試験(RCT:参加者が2種類以上の介入にランダムに割り振られる試験)が3件、介入プロセス評価が1件、質的研究(フォーカスグループインタビューなど)が1件、女性の虐待経験を探求するために質的研究と定量的研究を組み合わせた研究が2件、女性に対する調査が2件、女性とスタッフに対して行った質的・定量的研究を組み合わせた研究が1件であった。コア研究であると考えられる2件の研究の文献の全文を得ることができなかった。さらに、3つの関連研究がまだ進行中であった。
アドボカシーは期間、参加スタッフ(看護師、心理学者、ソーシャルワーカーなど)および条件設定(医療施設、家庭内暴力からの一時保護施設やシェルターなど)において大きく異なっていた。
研究では、アドボケイトと女性は以下の全てがアドボカシーの重要な部分であると意見が一致した。① 教育、② 虐待と女性の権利に関する情報、③ 救済資源(他のサービスを積極的に紹介し、そのアクセスを援助する、虐待の再発リスクを評価する、虐待再発リスクを回避して安全を担保する計画をたてる)アドボケイトに対する女性の信頼は重要で、アドボケイトと虐待を受けた女性が共通の民族的背景を共有していたり、アドボケイトも虐待被害経験を持っていた時はより一層信頼は強くなる。アドボケイトは、女性の民族、移民ステータス、住んでいる場所、経験した虐待の程度と種類、そして経済的状況に応じて、女性が自身の最善の選択肢を検討するのを支援しなければならない。虐待を減少させるための意思決定をする時、トレードオフが生じる。すなわち、加害者と一緒にいることが、必ずしも女性の安全を最もおびやかしたわけではなかった。アドボカシーは、充分に長い期間行われれば、虐待を受けた女性に恩恵をもたらしうるが、そのアドボカシーのゴールは各々の女性のニーズに沿ったものである必要がある。アドボカシーが効果を発揮するには数ヶ月かかる場合がある。2つの研究(1つは警察が関わっている研究で、もう一つは周産期クリニックが関わっている。)は、虐待が最初から深刻である場合、アドボカシーによっては逆に加害者による虐待を悪化させる可能性を示唆した。アドボケイトが虐待を受けた女性を救いたいと思う一方で、女性がアドボカシーを充分に有用と感じなかった場合、女性に対してストレスを与えうる。したがってアドボケイトは、より良い成果を産むために、繰り返しのトレーニング、意見交換、資金を含む、組織や他のアドボケイトからの支援を必要とする。
エビデンスの質
主要な調査結果のエビデンスのレベルは中程度から高度である。しかしながら、いくつかのテーマ(虐待加害者への身体的に依存していたり、妊娠していたり、子供がいる女性に対する影響)に関してはエビデンスによって十分に支持されていない。結論を確定するためには、さらなる質の高い研究が必要がある。研究者は、虐待を評価する指標を選択する際は慎重になるべきである。なぜなら、その指標はアドボケイトと虐待を受けた女性にとってより多くの意味を持つことになり、その結果、将来のレビューがより有用性が増すからである。参加者を何年も追跡する研究から得られる、さらなるエビデンスは役立つものとなるだろう。現在のアドボカシー介入が虐待を受けた女性にとって最善の資金の使い方かどうかを判断するために、経済分析が更に必要である。
《実施組織》岩見謙太朗 翻訳、杉山伸子 監訳[2019.10.22] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD013135》