なぜこの問題が重要なのか?
網膜上膜は、目の奥にできる異常な組織の層である。75歳以上の人の約5人に1人がかかると言われている。ほとんどの場合、網膜上膜の発生は眼の正常な老化過程と関連しており、「特発性」と表現される。また、網膜に炎症があったり、網膜の状態が悪かったりすることで、網膜上膜が発生する場合もある。また、眼科手術の後にも網膜上膜ができることがある。
網膜上膜は、通常、目の細かい部分を見る役割を担う部分(黄斑部)に形成される。人によっては、視力に影響を与えない場合もある。また、視界が歪んだり、ぼやけたりして、生活の質(QOL)に影響を与える人もいる。例えば、網膜上膜は、読書や運転に支障をきたす可能性がある。
網膜上膜が視力に影響を与える場合は、手術で除去するのが一般的である。局所麻酔薬(薬剤)を使って、目の周りを麻痺させる。他の手術と同様、この手術には副作用による有害性のリスクがある。白内障、網膜剥離、感染症、眼球出血などの潜在的な問題が含まれる。
手術の利益がそのリスクを上回るのはどのような場合かを理解するために、研究のエビデンスを検討した。
どのようにエビデンスを特定し、評価したか?
まず、医学文献を検索し、以下の研究を探した。
- 網膜上膜が既往症や手術に起因しない場合。
- 手術の効果を手術なしまたはプラセボ(偽薬)処置と比較したもの、および
- 網膜上膜の手術を受けたグループと、網膜上膜の手術を受けなかったグループの2つにランダムに振り分けられたもの。
そして、研究方法や規模などの要因に基づいてエビデンスをまとめ、その確実性を評価した。
レビューの結果
基準を満たした研究は1件しか見つからなかった。この研究はデンマークで行われ、軽度の視力障害を引き起こす網膜上膜を持つ53人が対象となった。参加者は、2つのグループのいずれかにランダムに割り当てられた。1つのグループの人は、すぐに手術を受けた。もう一方のグループは、注意深い観察を受け、状態が悪化した場合には手術を受けるよう勧められた。両群の対象者を1年間追跡調査した。
この研究結果から、軽度の視力障害を引き起こす網膜上膜に対して、直ちに手術を行うことは:
- 手術後12か月の視力に利益をもたらさないであろう。そして
- 重篤な副作用につながらない可能性がある。直ちに手術の治療を受けた1人に、重篤ではないと思われる副作用が発生した。これは、目の奥に液体が溜まることで起こる目の病気の発症である。
この研究では、手術が参加者のQOLに与える影響については調査していない。
このレビューの結果はどの程度信頼できるか?
以下の理由で、エビデンスに確信を持てない:
- 1件の小さな研究に基づいている。
- その結果、実施した手法の一部に誤りが生じた可能性がある。
結果が意味すること
重度の視力障害を引き起こす網膜上膜については、手術の効果を測定した注意深い比較研究は見つからなかった。重度の網膜上膜に対しては、手術が結果(評価項目)を改善すると広く考えられており、手術は日常的に行われている。手術と無治療を比較する慎重な比較研究は必要なく、倫理的にも不適切であると考えられる。
しかし、軽度の視力障害を引き起こす網膜上膜については、手術の効果は不明である。注意深く待つことの結果(評価項目)は、すぐに手術をした場合と同等の効果が得られる可能性があるというエビデンスがいくつかある。しかし、確固とした結論を出すには十分なエビデンスとは言えない。確実な方法を用い、長期的なQOLを含む結果を測定する研究がさらに進めば、手術の効果をより確信を持って判断できるようになるであろう。
このレビューの更新状況
本レビューのエビデンスは2020年5月現在のものである。
《実施組織》 阪野正大、小林絵里子 翻訳 [2022.03.28] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD013297.pub2》