要点
強固なエビデンスが不足していたため、メニエール病の治療に用いられたどのような手術についても、症状の改善に効果があるかどうかは明らかではなかった。また、これらの治療による重大なリスクの可能性についての情報はなかった。
手術の有効性を明らかにし、有害作用について評価を行うためには、より大規模で適切に実施された研究が必要である。
また、メニエール病患者の症状を評価するための最善の方法を明らかにし、治療が有益であるかどうかを評価するためには、さらなる研究が必要である。これには「コアアウトカムセット」(メニエール病に関するすべての研究で測定すべき項目のリスト)の開発が含まれるべきである。
メニエール病とは何か?
メニエール病は、内耳に起こる疾患であり、浮動性めまい(ふわふわ浮くような感覚)や回転性めまい(ぐるぐる回るような感覚)の発作を繰り返し、聴覚障害、耳鳴り(リンギング:キーンという高音、ハミング:ブンブンという低音、あるいはバジング:ブーンという低音)、耳が詰まった感覚(耳閉感)または圧迫感を伴う。通常は成人の、特に中年期に発症する。比較的まれな疾患であるが、生活の質に大きな影響を及ぼす可能性がある。
メニエール病はどのように治療されるのか?
メニエール病の治療法には、国や地域によって大きなばらつきがあり、現在のところ、最善の治療方針についての合意は得られていない。メニエール病の初期治療には、生活習慣や食事に関する助言、あるいは内服薬がしばしば用いられる。また、耳への注射など、他の治療法が用いられる場合もある。これらの治療法で効果がない場合や、非常に重い症状がみられる場合には、手術が検討されることもある。
何を調べようとしたのか?
以下の項目について調査を行った。
‐ どのような手術に、メニエール病の症状の軽減に有効であるというエビデンスがあるのか
‐ 治療が何らかの害をもたらす可能性があるかどうか
何を行ったのか?
異なる種類の手術について、治療なし、または偽の手術と比較した研究について検索を行った。
何が見つかったのか?
合計178人の参加者を対象とした2件の研究が見つかった。
鼓膜換気チューブ
最初の研究では、鼓膜に挿入する小さな換気チューブ(グロメット)について評価が行われた。この治療法が回転性めまいの症状に違いをもたらすかどうかは不明であり、手術の潜在的な有害性についての報告はなかった。
内リンパ嚢減圧術
2件目の研究では、内リンパ嚢(内耳の液体で満たされている部分)に対する特定の種類の手術について検討された。この手術では、内リンパ嚢から液体を排出するための細いチューブが留置された。この研究では、この手術と、メニエール病の症状に全く影響を与えない偽の手術が比較されていた。この研究においても、治療が回転性めまいの症状に影響を与えるかどうかは不明であり、また、手術の潜在的な有害性についての報告はなかった。
エビデンスの限界は何か?
レビューに含まれた2件の研究は小規模であり、試験の実施に関する問題があったため、研究結果の信頼性は低い。そのため、エビデンスに対する信頼性は非常に低い。異なる治療法がどの程度効果的であるかを検証するためには、より大規模で適切に実施された研究が必要である。
本エビデンスはいつのものか?
2022年9月時点におけるエビデンスである。
《実施組織》小泉悠、阪野正大 翻訳[2023.07.07]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD015249.pub2》