レビューの論点
早期退院サポート(ESD)サービスが、より患者を回復させるか、従来のサービスと同様に受けやすく手頃であるか立証することを目的とした。
背景
脳卒中患者に、地域で提供されるリハビリテーションを利用して早期退院を提案するサービスが早期退院サポート(ESD)サービスと称されてきた。ESDサービスは通常、定例会議を通じて協調して働く療法士、看護師、ドクターからなる多職種チームによって提供される。ESDサービスは患者が通常より早く退院して家庭に戻ること、家庭の馴染んだ環境でリハビリテーションを受けることを可能にすることを目的にしている。
研究の特性
脳卒中患者2422人を対象とした17件の臨床試験を同定した。(検索は2017年の1月まで)概ね、中程度の障害(介助下で歩行できる程度)を持ち、自宅で十分生活できると考えられる患者が採用された。サービスは、様々なレベルや程度の調整による多職種のESDチームに基づいたサービスと、多職種チームによらない調整のサービス(ESDチームに基づかないもの)に分類した。
主な結果
ESDグループにおいて、初回入院時の在院日数はおよそ5日間短縮した。平均として脳卒中発症後6ヶ月の時点で、ESDサービスを受けた患者は在宅で生活している可能性が高かった(ESDサービスを100件受けるごとに、5人多く家庭で生活している;中等度のエビデンス)また、ESDサービスを受けた患者は、日常生活活動で自立している可能性が高い傾向にあった(ESDサービスを100件受けるごとに、6人多く自立して活動または生活している;中等度のエビデンス)。患者の気分や生活の質、介護者の気分や生活の質、また病院への再入院のリスク、などの面で明確な有害事象は認められなかった。調整されたESDチームによる試験において、障害が最も減少したことが示された。通常のケアと比較して、ESDサービスのコストは、減少~わずかな上昇、の範囲にあった。
エビデンスの質
エビデンスの質は、死亡や自宅退院、障害という主なアウトカムのために、中度にダウングレードされた。理由としては、臨床試験参加者や医療従事者に、治療サービスの内容を伏せることが困難なためであった。これらの結果は、研究デザインの質の悪さや欠測データにより、質が低いと判断されたものではなかった。いくつかの他のアウトカム指標に関して、より多くの情報の提供がなされていなかったため、我々は低い質のエビデンスに格下げした。
結論
調整された多職種チームによって適切に資源を投入されたESDサービスは、少なくとも脳卒中患者のある選択グループにとって、障害を減少させ在院期間を短縮できた。調整された多職種チームに基づいていないサービスについては、結果は明らかではない。実質的な有害事象は認められなかった。
選択された脳卒中患者のグループへの、組織された多職種チームの適切な資源を用いたESDサービスにより、長期自立機能障害、施設入所が減少し、在院日数を短縮できる。組織された多職種チームの投入をしないサービスについて結論は出ていない。患者や介護者の気分や主観的健康状態、また病院への再入院について悪影響は認められなかった。
脳卒中患者は従来、主に病院でリハビリテーションを受けている。入院中の患者に家庭でのリハビリテーションを行う早期退院サポート(ESD)サービスを勧める、という展開になってきている。
従来のケアと比較すると、脳卒中の入院患者が早期に退院し地域リハビリテーションを受けるサービス(ESD)は、1)自宅退院を促進できる、2)患者と介護者にとって同等かそれ以上のアウトカムをもたらす、3)患者と介護者に満足をもたらす、4)様々な資源の正当な利用ができる。
Cochrane Stroke Group Trials Register(2017年1月)、Cochrane LibraryのCochrane Central Register of Controlled Trials(CENTRAL 2017,issue1)(2017年1月検索)、OvidのMEDLINE(2017年1月検索)、OvidのEmbase(2017年1月検索)EBSCOのCINAHL(看護学と健康関連文献の累積索引;1937年から2016年12月分)、Web of Science(2017年1月まで)を検索した。さらに、公表された試験、未公表のもの、現在進行中であるものを確認する目的で、6件の試験登録を調査した。(2017年3月)また、包含研究の引用追跡、関連文献の引用文献リストのチェック、研究者へのコンタクトを行った。
ランダム化比較試験(RCTs)では、従来の治療、または入院期間の短縮目的でリハビリテーションや地域サポートを提供するすべてのサービス介入を受ける入院中の脳卒中患者を対象とした。
患者の主要なアウトカムは、予定追跡期間終了時に記録された、死亡か長期自立機能障害の複合エンドポイントであった。2名のレビューワーが試験を精査し、適格性に基づいて分類し、データを抽出した。可能であれば、主要な試験実施者から標準化されたデータを求めた。すべての試験および、患者とサービスのサブグループの結果を分析し、特にその介入が、調整された多職種チーム(調整されたESDチーム)によって提供されたか、そうでないかに着目した。包含した試験のバイアスリスクを評価し、一連のエビデンスの質の評価にはGRADEを用いた。
現在利用可能なアウトカムデータである、2422人を対象とした17件の試験を組み入れた。参加者は、中程度の障害をもつ脳卒中生存者の高齢者グループが選択される傾向があった。ESDグループは、約6日程度の入院期間の削減を示した。(平均差(MD)-5.5;95%信頼区間(CI)-3to-8days; P<0.0001; 中等度のエビデンス)主要なアウトカムは、16件の試験 (2359人) で報告されていた。総合的に見て、予定された追跡終了時点(中央値6か月; 範囲 3~12)での、死亡や自立機能障害のアウトカムのオッズ比(OR)は、OR 0.80(95% CI 0.67to0.95, P=0.01, 中等度のエビデンス)であり、これはESDを受けた100人の患者につき有害なアウトカムは5件少ないということとに相当する。死亡は(16試験; 2116人)OR 1.04(95% CI 0.77~1.40, P=0.81, 中等度のエビデンス)、死亡または必要な制度上のケアを受けた場合(12試験; 1664人)は、OR 0.75(95% CI 0.59~0.96, P=0.02, 中等度のエビデンス)という結果であった。拡大日常生活活動(ADL)尺度(標準化平均差(SMD)0.14, 95% CI 0.03 to 0.25, P = 0.01,低度のエビデンス)や、サービスへの満足感(OR 1.60, 95% CI 1.08 ~ 2.38, P = 0.02, 低度のエビデンス)の向上など小さな改善がみられた。患者の日常生活活動尺度、患者の主観的健康状態や気分、また、介護者の主観的健康状態、気分、満足感に明確な違いは見られなかった。再入院のリスクは、ESDを受けたグループと従来のケアを受けたグループでは同様であるという低度のエビデンスを見つけた。(OR 1.09, 95% CI 0.79 ~ 1.51, P = 0.59, 低度のエビデンス)1年と5年の追跡において、明らかな利益についてのエビデンスは弱いものであった。通常のケアと比較してESDグループの6件の個々の試験の推定費用は、23%減少~15%増加の間の幅があった。
予め計画された一連の解析において、死亡や自立機能障害の最大の削減が見られたのは調整されたESDチームを評価した試験であり、調整されていないチームのサービスでは乏しい結果が示唆された(サブグループの交互作用P = 0.06)。ベースラインにおいて軽度から中程度の障害の脳卒中患者は、それより重度の脳卒中患者に比べて、死亡、自立機能障害が大きく減少した。(サブグループ交互作用P = 0.04)
《実施組織》高橋眞由美翻訳 藤本修平監訳 [2017.12.20]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクラン日本支部までご連絡ください。 なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review、Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD000443》