健康な母親と正期産の新生児(妊娠37週以降に産まれた児)の産後早期退院政策が、母親、新生児、父親の健康と関連するアウトカムに与える影響をランダム化比較試験により明らかにすることを目的とした。
論点
出産後に問題が発生したり、明らかになったりすることがある。例えば、女性は大量の出血や感染症を経験したり、母乳育児の開始に問題があったり、こどもの世話に自信が持てなかったり、児が成長しないこともある。かつて、女性はこれらの問題を防ぐため、あるいは対処するために病院に入院していた。女性が出産後に病院で過ごす期間は、過去50年間で多くの国で劇的に減少している。
なぜこれが重要なのか?
出産後の入院期間が短いことが、女性や生まれたばかりの新生児にとって有益か有害なのかはわかっていない。母親と新生児の早期退院には、慣れ親しんだ環境でより良い睡眠がとれる、病院環境で課される人工的なスケジュールにさらされることがない、感染症のリスクが減るなどのメリットが考えられる。しかし、退院が早まると、母乳育児や児のケアをサポートする機会が失われたり、出産後の児や母親の健康問題を発見できなくなったりする可能性がある。このレビューでは、出産後の早期退院という方針と、その時点での標準的な滞在期間やケアを比較している。
どのようなエビデンスが得られたか?
2021年5月にエビデンスを検索し、9409人の女性を対象とした17件の試験を確認した。研究の実施方法に制限があるため、エビデンスの確実性は低~中程度である。早期退院をどのように定義するかは、6時間から4~5日まで、かなりのばらつきがあった。このレビューに含まれているほとんどの試験では、早期退院には、ある程度の看護師または助産師のサポートが伴っていた。いずれの試験も低所得国で行われたものではなかった。
早期退院により、生まれてから28日以内に再入院する新生児の数は、おそらくわずかに増加する(10件の研究、6918人の新生児、中程度の確実性のエビデンス)。早期退院が、新生児の28日以内に死亡するリスクに影響を与えるかどうかは不明である(2件の研究、4882人の新生児)。産後早期の退院は、生後4週間以内に予定外の医療相談や医療専門家との接触を1回以上受ける新生児の数に、おそらくほとんど差をもたらさない(4件の研究、639人の新生児、中程度の確実性のエビデンス)。
早期退院により、出産に関連した合併症のために出産後6週間以内に再入院する女性の数は、おそらくほとんど変わらない(11件の研究、6992人の女性、中程度の確実性のエビデンス)。死亡は報告されていなかった。予定外の医療相談や医療従事者との接触が1回以上あった女性の数は、明らかな差はなかった(2件の研究、464名の女性、中程度の確実性のエビデンス)。同様に、早期退院により、産後6ヵ月以内のうつ病のリスクにほとんど差がない可能性がある(5件の研究、4333人の女性、確実性の低いエビデンス)。
早期退院により、産後6週目に授乳している女性の数や、予定外の医療相談や医療従事者との接触を1回以上行っている女性の数には、おそらくほとんど差がない。
早期退院は、退院から出産後6週間までのケアコストにほとんど差がなく、病院のケアコストをわずかに削減できる可能性がある。
結果が意味すること
新生児が再入院するリスクは、出産後に母親と赤ちゃんが早期退院した場合にはおそらく高くなるが、早期退院後に女性が再入院する場合にはおそらく高くはない。早期退院に伴う新生児や母親の死亡リスクについては、珍しい事象であるため、不明である。母親のうつ病、母乳育児、医療従事者との接触回数、ケアコストなどの点で、早期退院と標準的な退院との間に明確な違いはなく、これらの要因を調査するためのさらなる研究が行われるまでは、エビデンスの確実性は低いままであると考えられる。
《実施組織》小林絵里子、冨成麻帆 翻訳[2021.08.26]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD002958.pub2》