骨盤に根治的放射線療法を受けた人にみられる放射線による晩期直腸障害に対する手術以外の介入

背景

放射線療法は骨盤領域の癌の治療に用いられることが多い。肛門、直腸、膀胱、前立腺、婦人科臓器(子宮、卵巣、子宮頸部、膣)、小腸などの骨盤内のいくつかの臓器や骨盤は、放射線の影響を受け、骨盤放射線疾患に至ることがある。骨盤放射線疾患の症状は、治療時期の近辺に発生する場合(急性期の障害)や治療後長期にわたり(多年にわたることも少なくない)発生する場合がある(晩期の障害)。晩期の障害は、傷跡(線維症)、狭くなること(狭窄)、新たな血管ができることによる出血(毛細血管拡張症)に続発する長期的変化によるものである。直腸の損傷(放射線直腸障害)は、最も多く研究されている骨盤に対する放射線による晩期の影響で、骨盤に放射線療法を受けた人にとって、ごく一部であるが重大な影響を及ぼしている。よくみられる症状は、便意切迫、便失禁、疼痛、粘膜分泌物、直腸出血である。

本レビューの目的

本レビューの目的は、晩期直腸障害に対する手術以外の治療法の効果を評価することである。

主な結果

我々は、放射線直腸障害に対する手術以外の治療法を評価する患者993例を対象とした(準)ランダム化比較試験(RCT)16件を見出した。治療のなかには有望そうなもの(スクラルファート注腸、抗炎症レジメンへのメトロニダゾール追加、高圧酸素療法など)もあったが、エビデンスの質は低~非常に低いであった。さらに、癌患者にとって重要なQOLや長期的効果などのアウトカムはこれらの試験で検討されていない場合が多かった。

結論

晩期の放射線直腸障害に対する治療の一部は有望であるが、エビデンスの質は低く、確固とした結論は得ることはできない。試験のデザインと評価項目が異なっていたため、これらの試験のデータを併合してさまざまな治療法を比較することはできなかった。晩期放射線直腸障害は、発症が不規則でばらつきがあるという性質があるため、治療が有効であるかを確定するためには大規模なランダム化比較試験が必要である。今後の研究では、骨盤放射線疾患として知られる他の骨盤臓器の関連障害の可能性を検討すべきである。理想的には、評価項目は試験全体で標準化し、QOLの評価や癌患者にとって重要な他のアウトカムを含めるべきである。

エビデンスの質

アウトカムの大多数は、エビデンスの質が低~非常に低いものであり、これは主にほとんどの試験が小規模で限界があるためである。

著者の結論: 

晩期放射線直腸障害に対する介入のなかには、有望そうなもの(スクラルファート注腸、抗炎症レジメンへのメトロニダゾール追加、高圧酸素療法など)もあったが、単一の小規模試験であったため、そのエビデンスは限定的であった。さらに、QOLおよび長期的効果など癌患者にとって重要なアウトカムの記録が不十分であった。晩期放射線直腸障害は、発症が不規則でばらつきがあるという性質のため、治療が有効であるか否かを確定するためには大規模な多施設共同プラセボ対照試験(RCT)が必要である。今後の研究では、骨盤放射線疾患として知られる他の消化器、泌尿器、生殖器の関連障害の可能性を検討すべきである。アウトカム項目と同様に、介入はより広範であるべきで、癌患者にとって重要なQOL評価などの項目を含めるべきである。

アブストラクト全文を読む
背景: 

本稿は、2002年に最初に発表され、2007年に更新されたコクランレビューの最新版である。晩期放射線直腸障害(proctopathy)には、出血、疼痛、便意切迫、便失禁などがあり、癌に対する骨盤放射線療法後に発症することがある。

目的: 

晩期放射線直腸障害管理のための手術以外の介入の有効性と安全性を評価すること。

検索戦略: 

Cochrane Central Register of Controlled Trials(CENTRAL)(2015年11号)、MEDLINE (Ovid)、 EMBASE(Ovid)、CANCERCD、Science Citation Index、CINAHL(発刊から2015年11月まで)を検索した。

選択基準: 

癌のために骨盤放射線治療を受けた人において晩期放射線直腸障害管理のための手術以外の介入に関するランダム化比較試験(RCT)をレビューの対象とした。 検討した主要評価項目は、腸活動エピソード、出血、疼痛、しぶり、切迫、括約筋機能不全であった。

データ収集と分析: 

試験の選択、「バイアスのリスク」評価、データ抽出を二重に実施し、不一致があれば第三のレビュー著者の関与により解決した。

主な結果: 

参考文献1,221件を特定し、さらに我々の選択基準を満たす試験16件(対象患者計993例)をを特定した。前回の更新時に見出した1件の試験は「分類待ちの試験」の項に移動した。研究特性と評価項目が、対象とした試験全体でばらつきがあるため、アウトカムを統合せず、メタアナリシスは行わなかった。

放射線直腸障害はざまざまな症状や症状の組合せを伴っているため、レビュー対象とした試験では意図した効果が均一ではなかった。放射線直腸障害はざまざまな症状や症状の組合せを伴っているため、レビュー対象とした試験では意図した効果が均一ではなかった。第3グループでは、骨盤放射線疾患と呼ばれる一群の症状の治療法に着目した。この不均一な試験の集合を比較することをある程度可能にするため、これらの3グループの効果を分けて述べる。

9件の試験が直腸出血に対する治療法を評価し、バイアスのリスクは不明か高リスクであった。主要評価項目に有意差が認められたのは、以下の治療法の比較のみであった。アルゴンプラズマ凝固法(APC)およびその後の経口スクラルファート 対 APCおよびプラセボ(内視鏡スコア6~9でAPCおよびプラセボが優る、リスク比(RR)2.26、95%信頼区間(CI)1.12~4.55)、1試験、122例、低~中等度の質)、ホルマリン(4%)塗布療法 対 スクラルファート、ステロイド保持注腸(Radiation Proctopathy System Assessments Scale(RPSAS)によりグレード付けされた治療後症状のスコアおよびS字結腸鏡スコアでホルマリン療法が優る、P=0.001、効果は定量化されなかった、1試験、102例、非常に低い~低品質)、洗腸+シプロフロキサンおよびメトロニダゾール 対 ホルマリン(4%)塗布(出血(P=0.007、効果は定量化されなかった)、切迫(P=0.0004、効果は定量化されなかった)、下痢((P=0.007、効果は定量化されなかった))で洗腸が優る(1試験、50例、低品質)。

3件の試験(バイアスのリスクは不明および高い)が、非常に限局されているが単一の病理ではない症状を対象として評価した。主要評価項目には有意差は見出されなかった。バイアスのリスクが不明で非常に深刻な不正確性があるため、全試験でエビデンスレベルを非常に低いグレードであると判断した。

4件の試験(バイアスのリスクは不明および高い)が、複数の症状があるが肛門直腸に限局されている状態を対象とする治療法を評価した。症状に対する効果を示した試験は以下のとおりである。 消化器専門医主導のアルゴリズムに基づく治療 対 通常の治療(詳細な自助療法の小冊子)(6ヵ月後のInflammatory Bowel Disease Questionnaire–Bowel (IBDQ-B)スコアの変化量に有意差ありで消化器専門医主導のアルゴリズムに基づく治療が優る、平均差(MD)5.47、95%CI 1.14~9.81)、看護師主導のアルゴリズムに基づく治療 対 通常の治療(6カ月後のIBDQ-Bスコアの変化量に有意差ありで看護師主導のアルゴリズムに基づく治療が優る、MD 4.12、95%CI 0.04~8.19)(1試験、218例、低品質)、高圧酸素療法(2.0絶対気圧) 対 プラセボ(Subjective, Objective, Management, Analytic - Late Effects of Normal Tissue(SOMA-LENT)スコアの改善で高圧酸素療法(HBOT)が優る、P=0.0019)(1試験、150例、中等度の質)、レチノールパルミチン酸エステル 対 プラセボ(RPSASの改善でレチノールパルミチン酸エステルが優る、P=0.01)(1試験、19例、低品質)、中国伝統医学+西洋医学の統合医療 対 西洋医学(治療後のグレード0~1の放射線直腸障害で中国伝統医学を統合した医療が優る、RR 2.55、95%CI 1.30~5.02)(1試験、58例、低品質)。

大部分のアウトカムのエビデンスレベルは、主に不正確性と試験の限界があるため、GRADEアプローチを用いて低いまたは非常に低いに格下げされた。

訳注: 

《実施組織》一般社団法人 日本癌医療翻訳アソシエイツ(JAMT:ジャムティ)『海外癌医療情報リファレンス』(https://www.cancerit.jp/)鈴木久美子 翻訳、中村光宏(京都大学大学院、医学研究科、放射線腫瘍学・画像応用治療学)監訳 [2016.10.07]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクラン日本支部までご連絡ください。 なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review、Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。《CD003455》

Tools
Information