本レビューから、心室ペーシングに比してDDDペーシングで有効な傾向が示され、このことは、房室ブロックに関する現British Pacing and Electrophysiology Group's Guidelinesを裏づけている。この領域の進行中の試験からのランダム化比較試験で追加されるエビデンスは、この議論に新たな情報を提供するであろう。
DDD(心房・心室刺激)ペーシングまたは心房ペーシング(「生理的」ペーシング)は、房室(AV)同期と洞結節の優位性を維持することによって生理的な点で、心室ペーシングを上回る利点があるといわれており、その結果、心血管疾患罹病率と死亡率を減少させることから、患者の生存と生活の質(QOL)に寄与している。しかし、現在でも植え込まれているペースメーカのかなりの割合を、心室ペースメーカが占めている。
本レビューの目的は、房室ブロック、洞機能不全症候群またはその両疾患を持つ成人患者を対象にDDD(心房・心室刺激)ペースメーカの短期的および長期的な臨床的有効性を心室ペースメーカと比較評価することであった。別の目的は、DDD(心房・心室刺激)ペーシングと心房ペーシングとの間で考えられる有効性の差をそれぞれ個別に評価することとした。心房ペーシングと心室ペーシングの臨床的有効性の比較は検討しなかった。
Cochrane Controlled Trials Register(コクラン・ライブラリ2002年第3号)、MEDLINE(1966年~2002年)、EMBASE(1980年~2002年)およびScience Citation Index(1980年~2002年)を2002年8月19日に検索した。引用リストおよびウェブサイトを調べ、当該分野の研究者に問い合わせた。
心血管疾患罹病率、死亡率、患者関連QOL、運動能力、合併症率を検討するため、DDD(心房・心室刺激)ペーシングと心室ペーシングを比較している48時間以上の並行群間またはクロスオーバー式のランダム化比較試験。
データはプレパイロット・データ抽出書式により抽出した。第2のレビューアが、独自に抽出した質に関するデータのサブサンプルと伴にチェックリストを用いて質を評価した。適切なデータが利用可能な場合はメタアナリシスを行った。メタアナリシスが不可能な場合は、効果および統計学的有意性について肯定、中立または否定の方向を示す研究数を単純に数えた。
5件の並行群間および26件のクロスオーバー式のランダム化比較試験を同定した。報告の質は不良であることが判明した。並行群間研究からの統合データから、脳卒中、心不全および死亡の予防について生理的ペーシング(主にDDDペーシング)は統計学的に有意ではないが有益な傾向がみられ、心房細動予防については統計学的に有意な有益効果が示された(オッズ比(OR)0.79、95%CI 0.68~0.93)。並行群間およびクロスオーバー研究ともにペースメーカ症候群についてDDDペーシングを支持している(並行群間:Peto法によるOR 0.11、95%CI 0.08~0.14;クロスオーバー:標準化平均差(SMD)-0.74、95%CI -0.95~-0.52)。クロスオーバー研究からの統合データは、運動能力の点でDDDペーシングの方が統計学的に有意な有益傾向を示した(SMD -0.24、95%CI -0.03~-0.45)。個々の研究からはいずれも、心室ペーシングのアウトカムの方が有意に良好であることを示す報告はなかった。