背景
本レビューは、2014年第4版コクランレビュー(The Cochrane Database of Systematic Reviews)に掲載された、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が子宮頸部上皮内腫瘍(CIN)を退縮させ進行を抑制することを示したレビューの更新版である。子宮頸部上皮内腫瘍(CIN)は、HPV(ヒトパピローマウイルス)に起因する子宮頸部のよくある前癌病変であり、誰にでも起こりうるが、妊孕性の温存(妊娠する力を保つこと)を望む若い女性で見つかることが多く、治療には多くの場合で外科的切除が必要となる。CINは子宮頸部の浸潤癌に進展することがある。CINはスクリーニング(検診)で発見され、子宮頸部の手術によって治療することができる。その手術方法は、外科的切除による摘出、あるいはレーザー治療、加熱または凍結などにより子宮頸部を覆う細胞を破壊するかのいずれかになる。手術療法は大多数の症例で有効であるが、手術直後の出血や感染症など好ましくない副作用、あるいは晩期合併症(治療終了後に発症するか、治療中に発症して治療終了後も症状が続く合併症)として子宮頸部の傷あとに起因する月経困難や早産などを起こす可能性がある。
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は、大腸をはじめとする臓器のがんの発症を予防することが明らかになっているが、特に心臓や血管には望ましくない副作用をもたらす。試験の一つで用いられたrofecoxib(ロフェコキシブ)は2004年に販売中止となったが、その他のNSAIDsを用いた治療の実現可能性が明らかとなるかもしれない。
このため、CIN患者にNSAIDsを用いることによって、過度のリスクや副作用をもたらすことなく、CIN病変部の退縮を促進あるいは子宮頸癌への進展を予防できるかを解明したいと考えた。
本レビューの目的
セレコキシブなどのNSAIDsを用いたCIN治療が、異常所見の改善、さらに外科的処置の回避に有用であるかを確認すること。
試験の特性
2017年8月までのランダム化試験3件を特定した。これらの試験は、中等度または高度のCINを有する18歳超の女性患者171例を対象としていた。各試験の実施時期は、2005年6月から2012年4月、2002年6月から2003年10月、および2004年の5月から10月であった。このうち1件は終了前に試験中止された。試験対象患者は、プラセボ(砂糖の錠剤)を対照としてセレコキシブまたはロフェコキシブを経口で3〜6カ月間、毎日服用した。
主な結果
本レビューに3件目の試験を加えたことにより、NSAIDsのCIN退縮効果はプラセボと比較して非常に小さいとの結論を出すのに十分な症例数のレビューとなった。浸潤性子宮頸癌に進展した患者は確認されず、全般的にプラセボと比較して忍容性は良好であった。
エビデンスの質
いずれの試験も適切に実施されたと思われる。エビデンスの質に関する問題が、コンシールメント(割り付けを隠すこと)および割り当てられた薬物治療の終了前に試験から脱落した患者に関連していくつかある。したがって、エビデンスの確実性(質)は中等度であると結論づけた。事実報告の正確性を評価するには情報が不十分であった。この他にも特定されていない未完了および未報告の試験がある可能性もある。
結論
現時点で入手可能な文献から、CIN治療薬としてNSAIDsを提案できる説得力のあるデータはないことが示唆される。
《実施組織》一般社団法人 日本癌医療翻訳アソシエイツ(JAMT:ジャムティ)『海外癌医療情報リファレンス』(https://www.cancerit.jp/)田村 克代 翻訳、原野 謙一(国立がん研究センター東病院腫瘍内科)監訳 [2018.10.21]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review、Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。《CD004121》