背景
せん妄は疾患の末期にある患者によくみられる。せん妄を発症している患者には、混乱、集中力の欠如、睡眠と覚醒のパターンの乱れ、幻覚が現れる場合がある。せん妄は突然発症し、患者本人やその家族両方に苦痛をもたらす可能性がある。せん妄は、その患者が罹患している基礎疾患、薬の副作用、またはその他の症状が原因で起こりうる。せん妄が起こる理由は不明な場合が多く、その多面性により管理が困難である。根本原因を特定できないときには、症状を管理するために薬物治療を行う場合がある。
試験の特性
本レビューの目的は、成人末期疾患患者にみられるせん妄治療での薬物の有効性と副作用について評価することにあった。この目的のために、成人末期患者には、進行癌、進行性認知症または臓器不全などの進行性疾患の患者に加え、ホスピスや終末期医療を受けている患者を含めた。薬物治療と、プラセボ(有効性がない物質)、通常のケアまたはその他の薬物あるいは非薬物治療とを比較した。
主な結果
2019年7月までの検索で、計399人の成人を対象とした試験4件を特定した。参加者は、進行癌(3試験)、進行したエイズ(1試験)を患っており、全員にせん妄の症状がみられた。評価した薬物は抗精神病薬(3試験)またはベンゾジアゼピン系薬(1試験)で、プラセボとの比較、または抗精神病薬とベンゾジアゼピン系薬の比較、抗精神病薬の中での比較、ベンゾジアゼピン系薬の中での比較、またはその他の薬物あるいはプラセボとの併用との比較を行った。
ほとんどの試験では、われわれが最も重要と考える治療結果として、せん妄の症状、不穏(行動が活発になり、落ち着きがない状態)、および有害事象(副作用)が報告されていた。
試験間の類似性の欠如により、異なる試験のデータを統合することはできなかった。特定の薬剤(ハロペリドールおよびリスペリドン)が、軽度から中等度のせん妄を発症している成人末期患者のせん妄症状をわずかに悪化させる可能性があるという低い質のエビデンスが認められた。ハロペリドールは、軽度から中等度のせん妄を発症している患者に対して有害な副作用をわずかに増加させる可能性が高いという中等度の質のエビデンスが認められた。
エビデンスの質
試験から得られたエビデンスの質を4段階のレベル(非常に低い、低い、中等度、または高い)を用いて評価した非常に低い質のエビデンスとは、その結果について非常に不確実であることを意味する。高い質のエビデンスとは、その結果について非常に信頼できることを意味する。本レビューでは高い質のエビデンスは認められなかった。これは、参加した患者が少数であったこと、試験の脱落者数、および試験が少数であったことによる。
結論
薬物治療(特にハロペリドールおよびリスペリドン)は、プラセボと比較して、重症度が軽度から中等度のせん妄を発症している末期患者のせん妄症状をわずかに悪化させる可能性があるという低い質のエビデンスが認められた。これらの薬物が、有害な副作用をわずかに増加させる可能性があるという低い~中等度の質のエビデンスが認められた。本エビデンスのもととなった試験および参加者が少数であったため、さらに研究が必要である。
《実施組織》一般社団法人 日本癌医療翻訳アソシエイツ(JAMT:ジャムティ)『海外癌医療情報リファレンス』(https://www.cancerit.jp/)生田 亜以子 翻訳、太田 真弓(クリニックおおた院長)監訳 [2020.03.08] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクラン・ジャパンまでご連絡ください。 なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review、Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。《CD004770.pub3》