背景
急性心筋梗塞や重症の狭心症(心痛)は通常、心臓に血液を供給している動脈(冠状動脈)がふさがることによって起こる。このような障害をまとめて「急性冠症候群」(acute coronary syndrome :ACS)と呼んでいる。急性冠症候群は発症頻度が非常に高く、重度の合併症につながり、死亡することもある。高圧酸素療法(Hyperbaric oxygen therapy :HBOT)とは、患者が専用の治療室(または酸素カプセル)の中で純粋な酸素を高圧で吸入することである。高圧酸素療法は、心筋壊死(心臓の筋肉が壊れて死んでしまうこと)の危険がある領域を減らすことを目的に、損傷した心臓への酸素供給を増やすための治療として用いられることが時にある。
本レビューでは、医学文献から急性冠症候群の患者が高圧酸素療法を受けたときの転帰(病状の経過や結果)を報告した試験を検索した。
特定された試験
初回の文献検索は2004年していたが、さらに直近で2014年9月に検索を実施し、計6件の試験が見つかった。全試験が心発作(主に心筋梗塞)の患者を対象としており、なかには重症狭心症の患者も対象とした試験もあった。高圧酸素の濃度はほとんどの試験で同等であった。
主な結果
全体的にみて、急性冠症候群の患者が治療の一環として高圧酸素療法を受けると、死亡の可能性および主要な有害事象が発生する可能性が低くなり、痛みが速やかに緩和するというある程度のエビデンスが得られた。ただし、今回のレビューの結論は比較的小規模なランダム化試験に基づくものである。レビューの対象とした試験のほとんどでは、患者と研究者の両者があらかじめ誰が高圧酸素療法を受けるのかを知っていたため、「プラセボ効果」がバイアスとなり、高圧酸素療法に好ましい結果をもたらした可能性がある。このため、このような試験結果に対する信頼性はさらに低いと考えられる。高圧酸素療法に対する忍容性は全般的に良好であった。一部の患者が小さな(一人用)治療室で治療を受けたときの閉所恐怖感を訴えたが、被験者に酸素吸入による重大な毒性がみられたというエビデンスはない。加圧による鼓膜の損傷が生じた患者が一人いた。
結論
高圧酸素療法は、急性心筋梗塞および不安定狭心症の患者に対して、死亡リスク、疼痛緩和までの時間、有害な心イベントの可能性を抑える可能性がある一方、確信をもって高圧酸素療法を推奨するべきであるとするには、さらに研究が必要である。
《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2018.12.25] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、eJIM事務局までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。eJIMでは最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 【CD004818.pub4】