論点
分娩第3期は、児の誕生から胎盤および卵膜の娩出までの期間である。胎盤の剥離に伴い、子宮筋が血管を絞扼するまで、胎盤剥離部位から出血する。健康な女性であれば、通常の出血量は問題なく対応できるが、低栄養や衛生状態不良、医療ケアへのアクセスが限られている場合は妊娠合併症となり、分娩時の多量出血が深刻な罹患率や死亡へとつながる。これは、低所得や中所得国では非常に一般的である。 「分娩第3期の積極的管理」といわれる分娩第3期の積極的介入は、多量出血を減らす目的として推奨されている。積極的介入には以下が含まれる:1)子宮筋の収縮を促すために、赤ちゃんが生まれる直前または直後の子宮収縮薬(収縮を促す薬)の投与;2)出生後約1〜3分の臍帯結紮;3)熟練した助産師のいる状況での、胎盤を娩出するためのコントロール下での臍帯の牽引。このレビューでは、積極的管理の一部として、子宮収縮薬である麦角アルカロイド(エルゴメトリンなど)の使用を検討した。
重要である理由
以前の系統的レビューは、エルゴメトリンとオキシトシンの組み合わせが、分娩後の過剰出血(PPH)(500ml以上の出血と定義される)の発生が、有意に低くなることとの関連を示したが、オキシトシン単独の使用と比較して、副作用の発生が増えることが分かった。しかし、エルゴメトリン単独と子宮収縮薬の投与のない場合との比較や、PPHの予防のための異なる投与経路やタイミングでの比較を検討したレビューはなかった。
得られたエビデンス
2017年9月までのエビデンスを検索し、経口、筋肉内注射(IM)、または静脈注射(IV)によるエルゴメトリンの投与を受けた4009人の女性を含む、8試験をこのレビューの対象とした。8試験のうち、7試験をこのアップデートレビューの解析対象とした。
試験の分析結果によるエビデンスは、麦角アルカロイドは平均出血量を減少させ、母体の血液中のヘモグロビン値を増加させ、500 mL以上の出血(PPH)と子宮収縮薬を用いた治療を要する頻度を減らす可能性があることをを示唆している。麦角アルカロイドが1000mL以上の出血(重度のPPH)となる女性の数に何らかの影響を及ぼすかどうかは明らかではない。エビデンスは、分娩後の血圧の上昇や痛みなどの副作用を増加させる可能性があることも示唆している。その他の副作用(嘔吐、吐き気、頭痛または子癇発作)の点では、グループ間でほとんどまたは全く違いはないかもしれず、胎盤遺残や用手剥離の発生に一貫性がなかった。エビデンスの多くは、IM(筋肉内注射)またはIV(静脈内注射)による麦角アルカロイドを投与した試験から得られたものだった。経口の麦角アルカロイドの使用について検証した小さな試験があったが、結果は決定的ではなかった。含まれた研究の数は限られており、研究間の結果は常に一貫性のある正確なものではなかった。重大なアウトカムに対するエビデンスの全体的な質は、非常に低度から中等度にまで及んだ。
意味するもの
IV(静脈内注射)やIM(筋肉内注射)による投与は、出血量を減少させる可能性があるが、血圧上昇や子宮収縮に伴う痛みなどの副作用と関連していた。経口投与での麦角アルカロイドについての十分なエビデンスはなかった。オキシトシンやシントメトリン、プロスタグランディン(他のコクランレビューで検討されている)などの他の薬剤の使用が可能であり、それらの方がより望ましいかもしれない。
《実施組織》増澤祐子 翻訳、杉山伸子 監訳[2019.6.24] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD005456》