生殖補助医療周期における着床前後の糖質コルチコイド投与

レビューの論点

このレビューでは体外受精(IVF)または卵細胞質内精子注入法(顕微授精、ICSI)を受けた女性に、胚移植の時期に糖質コルチコイドを投与する場合に、投与しない場合と比較して妊娠の可能性が高まるかどうかを調査した。IVFとICSIはいずれも妊娠成立を補助する治療である。

背景

糖質コルチコイドとは、体内で自然に作られるステロイドホルモンに類似した薬の一種である。これらの薬は炎症を抑え体の免疫系を抑制する。糖質コルチコイドは子宮内膜(子宮の中の胚が着床する組織)の炎症を抑制する。このため、IVFやICSI周期の女性に対し、糖質コルチコイドが胚の着床と妊娠の可能性を高めることが示唆されてきた。

研究の特性

IVF/ICSIを受けた2,232組のカップルを対象とした16件のランダム化比較試験(ランダムに治療法を決定する試験であり、通常治療効果について最も信頼できるエビデンスが得られる)を同定した。胚移植の前後に糖質コルチコイドを投与する場合と投与しない、またはプラセボ(ダミーの治療)を投与する場合とを比較した。エビデンスは2021年12月20年現在のものである。

主な結果

エビデンスの質を考慮すると、糖質コルチコイドが出生率に差をもたらすかは不明であった。エビデンスによると、無治療またはプラセボの出生率を9%とした場合、糖質コルチコイドを使用した出生率は6%から21%であった。多胎妊娠率(1回の妊娠で2個以上の胚ができること)についても差があるか不明であった。妊娠継続率や臨床的妊娠率についても、糖質コルチコイド使用群と無治療またはプラセボ群に差があるか不明であった。エビデンスによると、無治療またはプラセボ群の臨床妊娠率を25%とすると、糖質コルチコイド使用群は24%から32%であった。また、異所性妊娠、卵巣過剰刺激症候群(卵巣やお腹がはれて痛む)といった有害事象についても差があったか不明であり、これらについての報告は不十分で一貫していなかった。

エビデンスの質

エビデンスの質は非常に低度から低度であった。主な限界点は、研究方法の報告が不十分であることと試験の規模が小さいことであった。この治療法の役割を解明するためには、明確に定義された患者群を対象にした研究がさらに必要である。

訳注: 

《実施組織》内藤未帆、杉山伸子 翻訳[2022.07.17]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD005996.pub4》

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