分娩第2期の子宮底圧迫

論点

分娩第2期は、子宮頸部が全開大 (10 cm) から児が生まれるまでのいきみの段階である。胎児仮死や、進行不全、母体疲労、長くいきむことは危険だとされる医学的状況などが、この分娩期に生じる。産道方向へ母体腹部を押し子宮底を圧迫することは、自然分娩を促進し、分娩第2期の長さを短縮し、器械分娩(鉗子や吸引)や帝王切開の必要性を減らすことなどを目的としてしばしば行われる。手術的分娩(器械分娩や帝王切開)の選択肢が限られているもしくは選択できないような医療資源の乏しいの状況では特に適切な方法となる。手による子宮底の圧迫は、子宮収縮のたびに行うことができる。また、子宮収縮中に圧力をかけるよう、代替的に、伸縮可能なベルトを用いることもできる。

このレビューは、分娩第2期の子宮収縮時の子宮底圧迫は女性の経腟分娩を支援できるか、また女性や胎児に望ましくない結果を生じさせるかどうかの疑問に答えることを目的とした。

重要である理由

長時間の分娩は、女性や児にとって危険をもたらすこともある。分娩から出生までの間に、胎児と女性が疲労することがある。多くの国では、吸引分娩、鉗子や帝王切開が行える訓練を受けた専門家がいる。しかしその他の国では、これらのリソースはしばしば欠けており、長時間の分娩は生命を脅かしうる。子宮底圧迫は、出産する女性の助けになるかもしれない。児と母親の合併症を増やす可能性もあるかもしれない。このトピックに関する知識は十分でなく、これらの手技が、女性と児にどの程度影響を与えるのかを知ることは重要である。

どのようなエビデンスが得られたか?

このアップデート版のコクラン レビューは、3948人の女性を含む9件のランダム化比較試験を同定した (検索日 2016年11月30日) 。5件の研究 (3057人を含む) は、用手での子宮底圧迫と子宮底圧迫を行わなかった場合の比較で、4件の研究 (891人を含む) は、伸縮可能なベルトを使用した子宮底圧迫を検証していた。

用手的子宮底圧迫により、ある特定の時間内に経腟分娩を行った女性の数や (非常に低度のエビデンス)、器械分娩や帝王切開、経腟分娩を行った女性の数 (非常に低度のエビデンス) に違いがあるというエビデンスは得られなかった。用手的子宮底圧迫は分娩所要時間に影響を与えなかった (非常に低度のエビデンス)。分娩経過が良好でなかったり、低臍帯動脈pH、低アプガー スコアの児の数は、母親が子宮底圧迫をうけたかどうかによらず、同じだった (すべて非常に低度のエビデンス)。どちらの群でも死亡した児はいなかった。起こりうる深刻な問題や、女性の死亡について報告した研究はなかった。

初めての出産の女性の場合、伸縮可能なベルトによる子宮底圧迫は、器械分娩や帝王切開となる女性の数を減らす可能性が示唆されたが (非常に低度のエビデンス)、はっきりとしたエビデンスでなかった。初産の場合、伸縮可能なベルトの使用は、ベルトを使用しなかった女性よりも分娩所要時間が短かった (非常に低度のエビデンス)。伸縮可能なベルトの使用は、帝王切開や低臍帯動脈pH (低度のエビデンス) や、出生5分後のアプガー スコア (非常に低度のエビデンス) が低い児の数に違いはなかった。ある特定の時間内に分娩を行ったかどうか、死亡や深刻な問題が生じる可能性のある児の数や女性の死亡について報告した研究はなかった。分娩経験のある女性に、伸縮可能なベルトを使用した研究はなかった。

意味するもの

用手的もしくは伸縮可能なベルトによる子宮底圧迫は、分娩でいきみを必要とする時間を短縮させることや、手術的分娩を回避することに効果的な方法であるかどうかや、安全な手技なのかどうかについては、ランダム化比較試験の結果から十分なエビデンスは得られなかった。よって、現段階では、分娩第2期に子宮底圧迫を行うことを支持するエビデンスは十分でない。

どのように子宮底圧迫を行うのかを詳細に記述し、胎児の安全性、会陰のアウトカム、長期の母体アウトカムや母親の満足度に焦点をあてた質の良いさらなる研究が必要である。

著者の結論: 

用手もしくは伸縮可能なベルトを用いた子宮底圧迫がもたらす益と害について結論を導くエビデンスは不十分だった。分娩第2期における伸縮可能なベルトを用いた子宮底圧迫は、初産婦の分娩第2期所要時間を短縮し、手術的分娩の発生割合を減らす可能性がある。しかし、既存の研究のサンプルサイズは小さく、一般化可能性については明らかでない。児の安全性に関するエビデンスは不十分だった。疲労や意識消失により母親が努責をかけることができないなどの特定の臨床場面における子宮底圧迫を用いることについてのエビデンスはなかった。現段階では、分娩第2期の女性にどのような方法であれ子宮底圧迫をルーティンで行うことのエビデンスは十分でない。この手技が現在広く普及していることや、分娩を促進するその他の方法が実施できないような状況でこの手技を用いる可能性があることなどの理由で、質の良いさらなる研究が必要である。また、その他の研究対象者(経産婦など)による検証も必要である。どのような方法で子宮底圧迫を実施すべきかを詳細に記述し、胎児の安全性、会陰のアウトカム、妊産婦や児の長期アウトカム、妊産婦の満足度を考慮したさらなる研究が必要である。

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背景: 

分娩第2期の子宮底圧迫(クリステレル胎児圧出法としても知られる)は、自然分娩を促進し、分娩第2期遷延や手術的分娩の必要性を避ける目的で、産道方向へ子宮の最上部を用手圧迫する方法である。子宮底圧迫は伸縮可能なベルトを使用して行われることもある。子宮底圧迫は広く用いられているが、その方法は非常に様々である。子宮底圧迫の使用について支持や反対の強い意見があるにも関わらず、妊産婦や新生児にもたらされる利益と害に関するエビデンスは不十分である。分娩第2期における子宮底圧迫の有効性および安全性の客観的評価が必要である。

目的: 

子宮底圧迫は、自然分娩を達成し、分娩第2期遷延や手術的分娩の予防に有効であるかどうかを検証し、子宮底圧迫に関連する妊産婦および新生児の有害事象を探索することを目的とした。

検索戦略: 

Cochrane Pregnancy and Childbirth Group's Trials Register(2016年11月30日)および検索した研究の文献リストを調べた。

選択基準: 

単胎頭位の分娩第2期にある女性を対象に、子宮底圧迫をした場合(用手または伸縮可能なベルトを用いる)と子宮底圧迫をしない場合とを比較したランダム化比較試験および準ランダム化比較試験。

データ収集と分析: 

3名のレビューアが可能性のあるすべての研究について、本研究に含めるかどうかを独立に評価した。事前準備した方式を用いてデータ抽出を行った。Review Manager 5 ソフトウェアにデータを入力し、精度をチェックした。

主な結果: 

このアップデート版のレビューには、9試験が対象となった。5試験(3057人)は、用手での子宮底圧迫と子宮底圧迫未実施を比較していた。4試験(891人)は、伸縮可能なベルトを用いた子宮底圧迫と子宮底圧迫未実施を比較していた。この介入方法では、女性とスタッフの盲検化は不可能であった。2試験を症例減少バイアスのリスクが高いとし、別の1試験で報告バイアスのリスクが高いと評価した。他の全ての試験は、その他のバイアスのリスクを低いもしくは不明確とした。ほとんどの試験は研究デザインに限界があった。大半のアウトカムにおいて、異質性は高かった。

用手での子宮底圧迫と子宮底圧迫未実施の比較

用手での子宮底圧迫は、これらの変化に関連はなかった:ある特定時間内の自然分娩 (リスク比 (RR) 0.96, 95% 信頼区間 (CI) 0.71 ~ 1.28; 120人; 1試験; 非常に質の低いエビデンス), 器械分娩 (RR 3.28, 95% CI 0.14 ~ 79.65; 197人; 1試験), 帝王切開 (RR 1.10, 95% CI 0.07 ~ 17.27; 197人; 1試験), 手術的分娩(average RR 0.66, 95% CI 0.12 ~ 3.55; 317人; 2試験; I² = 43%; Tau² = 0.71; 非常に質の低いエビデンス), 分娩第2期所要時間 (平均差 (MD) -0.80 分, 95% CI -3.66 ~ 2.06 分; 194人; 1試験; 非常に質の低いエビデンス), 新生児の低い臍帯動脈血pH (RR 1.07, 95% CI 0.72 ~ 1.58; 297人; 2試験; 非常に質の低いエビデンス), 5分値の7点以下のアプガースコア (average RR 4.48, 95% CI 0.28 ~ 71.45; 2759人; 4試験; I² = 89%; Tau² = 3.55; 非常質の低いエビデンス)。用手による子宮底圧迫を受けた女性の方が対照群に比べて頸管裂傷が多かった (RR 4.90, 95% CI 1.09 ~ 21.98; 295人; 1試験)。新生児死亡は、このアウトカムを報告したいずれの2試験でも生じていなかった (非常に質の低いエビデンス)。重度な合併症や死亡を報告している試験はなかった。

伸縮可能ベルトによる子宮底圧迫と子宮底圧迫未実施の比較

伸縮可能ベルトによる子宮底圧迫によって、器械分娩(average RR 0.73, 95% CI 0.52 ~ 1.02; 891人; 4試験; I² = 52%; Tau² = 0.05) や手術的分娩 (average RR 0.62, 95% CI 0.38 ~ 1.01; 891人; 4試験; I² = 78%; Tau² = 0.14; 非常に質の低いエビデンス) を要した女性の数は減らなかった。どちらのアウトカムにおいても、異質性は高かった。分娩第2期所要時間は、報告された2試験のどちらでも、伸縮可能なベルトを用いることで、初産婦の分娩所要時間が短縮していたことが示された (average MD -50.80 分, 95% CI -94.85 ~ -6.74 分; 253人; 2試験; I² = 97%; Tau² = 975.94; 非常に質の低いエビデンス)。 経産婦に関するこのアウトカムのデータはなかった。伸縮可能なベルトを用いることで、帝王切開(average RR 0.56, 95% CI 0.14 ~ 2.26; 891人; 4試験; I² = 70%; Tau² = 0.98), 新生児の低い臍帯動脈血pH (RR 0.47, 95% CI 0.09 to 2.55; 461人; 1試験; 質の低いエビデンス), 5分値の7点以下のアプガースコア (RR 4.62, 95% CI 0.22 ~ 95.68; 500人; 1試験; 非常に質の低いエビデンス)の発生割合に差はなかった。会陰裂傷三度は、伸縮可能なベルトを用いた群に多かった (RR 15.69, 95% CI 2.10 ~ 117.02; 500人; 1試験)。ある特定の時間内の自然分娩新生児死亡母体の重症合併症や死亡については、どの試験でも報告はなかった。

訳注: 

《実施組織》増澤祐子翻訳 重見大介監訳 [2017.10.3]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review、Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD006067》

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