論点
妊娠性絨毛新生物(GTN)は、正常妊娠または子宮内で胎児ではなく組織(多くの場合は嚢胞)が形成される奇胎妊娠(訳注:胞状奇胎とも呼ばれる)の後、子宮内に悪性腫瘍が発生する稀な病気だが、治癒可能な病気である。GTNを有する女性は、特定のスコアリングシステムを用いて、低リスクまたは高リスクに分類される。リスクの低いGTNを持つ女性のほとんどは、子宮の拡張と掻爬(D&C)を受けた後、化学療法(抗がん剤)で治療することで治癒している。メトトレキサートとアクチノマイシンDの2つは、低リスクのGTN治療の第一選択薬として最も一般的に使用されている薬剤であるが、ヨーロッパや北米ではメトトレキサートが好まれている。第一選択の治療では治らなかったり、副作用で治療を中止しなければならないこともあり、二次的な治療を行わなければならないこともある。メトトレキサートが最初に使用されれば、通常はアクチノマイシンDが二次治療となり、その逆もまた然りである。低リスク疾患を治す可能性が高いとされる薬剤があるとすれば、どの薬剤を第一選択とする可能性が高いのかが明確ではなかったため、このレビューを実施した。さらに、どちらがより多くの副作用を引き起こすかは明らかではなかった。
レビューはどのように行われたか?
これは、2009年に公開された初版のコクラン・レビューの更新版である。このレビューを実施して以来、3回(2008年、2012年、2016年)文献検索を行い、完了した7件のランダム化比較試験(RCT)と4件の進行中の試験を確認した。完成した試験では、薬剤の投与量と投与頻度が異なる2種類のアクチノマイシンDレジメンを用いて、3種類の治療メトトレキサートレジメンと比較した。これらの試験は、バイアスのリスクが低いか中程度であると評価した。可能であればデータを抽出して統合し、研究で比較された治療法に従って研究をグループ化した。
わかったこと
全体的に、そして比較された各治療レジメンについて、エビデンスを見ると、アクチノマイシンDを第1選択にするとおそらくメトトレキサートよりも治癒する可能性が高く、失敗する可能性が低いことが示されている。副作用はどちらの治療法でも比較的軽度であると報告されており、女性に最も多くみられた副作用は、吐き気、倦怠感、貧血であった。しかし、副作用や重篤な有害事象に関するエビデンスは不確かである。確実性の低いエビデンスだが、アクチノマイシンD、特に5日間のレジメンで重篤な有害事象がより一般的になる可能性があることを示唆していた。
結論
アクチノマイシンDはメトトレキサートよりも効果的な治療法であると思われるが、副作用や重篤な副作用に関するエビデンスは不確かであり、より多くのエビデンスが必要である。これらの治療が将来の不妊治療に及ぼす影響についても、より多くのエビデンスが必要とされている。現在、メトトレキサートとアクチノマイシンDレジメンを比較した4つのRCTが実施されており、この分野への重要な貢献が期待される。
《実施組織》小林絵里子、阪野正大 翻訳[2020.07.22] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD007102.pub4》