限局期ホジキンリンパ腫の治療

背景

ホジキンリンパ腫(HL)はリンパ系の悪性腫瘍である。小児にも成人にも発症するが、20代が好発年齢で、最も完治しやすいがんの一つでもある。ホジキンリンパ腫の病期は4ステージあり、ステージIとIIは限局期、ステージIIIとステージIVは進行期と考えられている。限局期ホジキンリンパ腫は、巨大腫瘤の有無や夜間の発汗あるいは発熱といったB症状の有無などのリスク因子を用いて、さらに予後良好群および予後不良群に分類される。治療選択肢には、化学療法、放射線療法、あるいはそれらの併用治療がある。放射線療法により、二次性悪性腫瘍(二次発がん)をはじめとする、より多くの治療関連副作用が発現する可能性がある。これは、少なくとも照射野が大きかった過去の治療法の場合である。しかし、照射野が非常に限定された現代の治療方法では、放射線療法により引き起こされる長期的な副作用の危険性は大きく低下している。

レビューの論点

本系統的レビューでは、化学療法のみの治療または化学療法および放射線療法の併用治療を受けた限局期ホジキンリンパ腫の成人患者を対象に、全生存期間(OS)と無増悪生存期間(PFS)を比較する。

試験の特性

Cochrane Central Register of Controlled TrialsおよびMEDLINEなどの重要な医学データベースを検索した。2名のレビュー著者がそれぞれ、結果のスクリーニング、要約、解析を行った。これにより、患者2,564例が登録された7件のランダム化比較試験をレビューに含めた。

提供されたエビデンスは、2016年12月現在のものである。

主な結果

化学療法の回数が同じ両群で、化学療法のみの治療と化学療法および放射線療法の併用治療を比較したところ、本系統的レビューにおいては介入群間のOSに差があるとのエビデンスは示されなかった。しかし、事前に計画された放射線治療を受けていない患者が多くいたことから、レビューに含めた2件の試験は他のバイアスのリスクが高い可能性があった。このような試験を除外した後の解析では、OSについては化学療法のみの治療を受けた成人よりも、化学療法および放射線療法の併用治療を受けた成人の方が良好であった。PFSも、化学療法および放射線療法の併用治療を受けている成人の方が良好であった。ほとんどの臨床試験において有害事象(AE)が報告されたが、その方法は異なっていた。比較可能なデータが十分にないため、有害事象に注目した。感染症関連の死亡率、二次性腫瘍関連の死亡率、心疾患関連の死亡率に関しては、治療群間で差があるとのエビデンスはなかった。完全奏効率(CRR)も治療群間に差があるとのエビデンスはなかった。

化学療法の回数が異なる治療群において、化学療法のみの治療と、化学療法および放射線療法の併用治療を比較したところ、OSが報告されたのは1件の試験のみであった。化学療法のみの治療は、化学療法および放射線療法の併用治療と比較してOSを改善する可能性がある。PFSに関しては、治療群間で差があるとのエビデンスはなかった。計画された治療を受けていない患者がいる試験を除外した後、化学療法および放射線療法の併用治療によりPFSが改善されたとの結果が示された。感染症関連の死亡率、二次性腫瘍関連の死亡率、心疾患関連の死亡率については、治療群間で差があるとのエビデンスはない。完全奏効率は報告されていなかった。

エビデンスの質

化学療法の回数が同じ両群について、OSおよびPFSのエビデンスの質は中等度、AEおよび完全奏効率のエビデンスの質は低いと判断した。

化学療法の回数が異なる両群について、OS、PFSおよびAEのエビデンスの質は低いと考えられた。

結論

本系統的レビューでは、限局期ホジキンリンパ腫の成人患者を対象に、化学療法のみの治療と化学療法および放射線療法の併用治療を比較した。

両群で化学療法の回数が同じ場合の比較では、化学療法と放射線療法の併用治療を受けた患者のほうが、化学療法のみの治療を受けた患者よりもPFSが良好という中等度のエビデンスがあることがわかった。化学療法に放射線療法を併用する治療は、おそらく、OSに関してはほとんど、あるいは全く差はないであろう。他のバイアスのリスクが高い可能性がある臨床試験を除いてさらに解析したところ、化学療法と放射線療法の併用治療はOSを改善することが示された(両解析ともエビデンスの質は中等度)。

群間で化学療法の回数が異なる場合の化学療法のみの治療と化学療法および放射線療法の併用治療を比較したところ、結果に関するエビデンスの質が低いことから、OSおよびPFSの解釈は不明であった。

著者の結論: 

本系統的レビューでは、限局期ホジキンリンパ腫の成人患者を対象に、化学療法のみの治療と化学療法および放射線療法の併用治療を比較した。

化学療法の回数が同じ両群の比較においては、化学療法のみの治療を受けた患者よりも化学療法および放射線療法の併用治療を受けた患者の方がPFSが良好であるというエビデンスがあることがわかった(エビデンスの質は中等度)。OSに関しては、放射線療法を併用しても、おそらく、ほとんど、あるいは全く差がないであろう。他のバイアスのリスクが高い可能性のある臨床試験を除いた感度分析においては、化学療法および放射線療法の併用治療は化学療法のみの治療と比較してOSを改善することが示されている。

化学療法の回数が異なる両群の比較については、結果に対するエビデンスの質が低いことから、OSおよびPFSの解釈は不明であった。

アブストラクト全文を読む
背景: 

化学療法とその後の局所放射線療法からなる併用治療は、限局期ホジキンリンパ腫(HL)患者への標準治療である。しかしながら、二次性悪性腫瘍(二次発がん)などの長期的な有害事象が認められることから、近年、放射線療法の役割は疑問視されており、限局期HLには化学療法のみでの治療を提唱する臨床研究グループもある。

目的: 

限局期ホジキンリンパ腫の成人患者を対象とした、化学療法のみの治療と化学療法および放射線療法の併用治療の効果を比較すること。

検索戦略: 

本レビューの初版において、1980年1月から2010年11月までに行われた化学療法および化学療法レジメンに放射線療法を併用したランダム化比較試験(RCT)を特定するために、MEDLINE、Embase、CENTRALおよび学会抄録集(米国血液学会、米国臨床腫瘍学会、国際ホジキンリンパ腫シンポジウム)を検索した。レビューを更新するために、2016年12月までのMEDLINE、CENTRALおよび学会抄録集を検索した。

選択基準: 

限局期ホジキンリンパ腫患者を対象に、化学療法のみの治療と、化学療法および放射線療法の併用治療を比較したRCTをレビューに含めた。進行期の患者が20%以上含まれる試験は除外した。化学療法に放射線療法を併用するメリットはまだ明らかでないため、化学療法の回数がより多い対照群との比較を行った。更新された本レビューでは、化学療法のレジメンが同様であることが想定される介入群と対照群間において、化学療法の回数が異なる臨床試験を評価した二次比較も含めた。小児のみを評価した試験は除外したため、本レビューには成人を対象とした試験のみが含まれている。

データ収集と分析: 

2名のレビュー著者がそれぞれにデータを抽出し、臨床試験の質を評価した。試験著者に連絡を取り、欠如している情報を入手した。効果測定のために、全生存期間(OS)と無増悪生存期間(PFS)にはハザード比(HR)を、奏効率にはリスク比(RR)を使用した。いずれの臨床試験も必ずしも本レビューでの定義通りにPFSを報告しているわけではないため、同様の結果(無イベント生存期間等)を残らずPFS/腫瘍コントロールとして評価した。

主な結果: 

無イベント生存期間等)を残らずPFS/腫瘍コントロールとして評価した。これらの中から、患者2,564例が登録された7件のRCTを解析に含めた。5件の試験が含まれた本レビューの初版とは対照的に、今回は小児をランダム化した試験は除外した。その結果、前回の解析から1件の試験を除外し、3件の新しい試験を選定した。

患者1,388例が登録された5件の試験が、化学療法のみの治療と化学療法および放射線療法による併用治療を比較していた。化学療法の回数は両群で同じであった。OSに関しては、化学療法に放射線療法を併用した治療ではほとんど、あるいは、全く差は認められないだろう[HR 0.48; 95%信頼区間 (CI) 0.22〜1.06; p= 0.07、エビデンスの質は中等度]。しかしながら、ここに含まれた2件の試験について、多くの患者が計画された放射線療法を受けていないことから、他のバイアスのリスクが高い可能性があった。このような試験を除外した後の感度分析では、化学療法および放射線療法の併用治療は、化学療法のみの治療と比較してOSを改善することが示された(HR 0.31; 95% CI 0.19〜0.52; p <0.00001、エビデンスの質は中等度)。化学療法のみによる治療とは対照的に、化学療法および放射線療法の併用治療ではPFSが改善された(HR 0.42; 95% CI 0.25〜0.72; p = 0.001; エビデンスの質は中等度)。感染症関連の死亡率(RR 0.33; 95% CI 0.01〜8.06; p = 0.5; エビデンスの質は低い)、二次性悪性腫瘍関連の死亡率(RR 0.53; 95% CI 0.07 to 4.29; p = 0.55; エビデンスの質は低い)、および心疾患関連の死亡率(RR 2.94; 95% CI 0.31〜27.55; p = 0.35;エビデンスの質は低い)は、化学療法のみの治療と化学療法および放射線療法の併用治療で差を示すエビデンスはない。 完全奏効率(CRR)(RR 1.08; 95% CI 0.93〜1.25; p = 0.33; エビデンスの質は低い)に関しても、治療群間で差を示すエビデンスはない。

患者1,176例が登録された2件の臨床試験では、化学療法のみの治療と化学療法および放射線療法による併用治療を比較していた。化学療法の回数は両群で異なっていた。OSは1件の試験でのみ報告され、化学療法のみの治療(治療回数は併用群より多い)は、化学療法および放射線療法の併用治療と比較してOSを改善する可能性がある(HR 2.12; 95% CI 1.03〜4.37; p = 0.04; エビデンスの質は低い)。本試験においても、多くの患者が計画された治療を受けていないことから、他のバイアスのリスクが高い可能性があった。PFSに関しては、化学療法のみの治療と化学療法および放射線療法による併用治療に差があるとのエビデンスはない(HR 0.42; 95% CI 0.14〜1.24; p = 0.12; エビデンスの質は低い)。計画された治療を受けていない患者が含まれる試験を感度分析から除外した後、化学療法および放射線療法の併用治療は化学療法のみの治療と比較してPFSに改善が認められた(HR 0.24; 95% CI 0.070〜0.88; p = 0.03、1件の試験より)。感染症関連の死亡率(RR 6.90; 95% CI 0.36〜132.34; p = 0.2; エビデンスの質は低い)、二次性悪性腫瘍関連の死亡率(RR 2.22; 95% CI 0.7 - 7.03; p = 0.18; エビデンスの質は低い)および心疾患関連の死亡率(RR 0.99; 95% CI 0.14〜6.90; p = 0.99; エビデンスの質は低い)は、化学療法のみの治療と化学療法および放射線療法の併用治療に差があるというエビデンスはない。完全奏効率は報告されていなかった。

訳注: 

《実施組織》一般社団法人 日本癌医療翻訳アソシエイツ(JAMT:ジャムティ)『海外癌医療情報リファレンス』(https://www.cancerit.jp/)宮武洋子 翻訳、野崎健司(大阪大学大学院、血液・腫瘍内科)監訳 [2017.7.1] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review、Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。《CD007110》

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