このレビューに関心がある人は?
不安障害とアルコール使用の問題を抱えている人や、医療従事者の方
なぜこのレビューが重要なのか?
不安障害をもつ人は、アルコールを乱用したり、アルコール依存症をもつことが多い。すべての不安障害は、長く続く過剰な恐怖を伴い、恐怖の原因によって、以下のように分類される:全般性不安障害(日常的な状況)、強迫性障害(反復的な思考や行動)、パニック障害(パニック発作)、心的外傷後ストレス障害(PTSD)(過去のトラウマ的出来事)、社会不安障害(他者からの否定的な判断)、特定の恐怖症(特定の対象や状況)。不安障害の人がアルコールを乱用したり、アルコールに依存したりすると、どちらか単独である状態に比べて障害が大きく、治療が困難になることがある。心理療法は、アルコール使用の問題のある人の不安障害の治療に最もよく使われる。心理療法では、不安の原因に対する感情、気分、行動、思考、反応を探っていく。しかし、心理療法が必ずしも効果があるとは限らないため、薬物療法が有効な治療法であるかどうかを検証することが重要である。
このレビューでわかることは何か?
不安障害とアルコール使用問題の両方を抱えている人の治療において、薬物療法が有効かどうかを明らかにしたかった。このため、両方の障害を持つ人の治療における薬物療法のランダム化比較試験(RCT)を系統的に検索した。RCTでは、研究の参加者が、薬物療法を受けるのかプラセボ(偽薬)を受けるのかが同じ確率であるため、より正確に薬の効果を測定することができる。
このレビューで対象となる研究は?
このレビューでは、不安障害とアルコール使用障害を有する290人の成人(平均年齢37.4歳)を対象とした5つのRCTを含めた。本エビデンスは2014年1月現在のものである。2つの試験は社会不安障害について、別の2つの試験は心的外傷後ストレス障害(PTSD)について、1つの試験は全般性不安障害について行われた。レビューに含まれた試験はすべて米国で行われたものであった。研究参加者のほとんどが男性(70%)で、アルコール依存症(79%)に分類されていた。
このレビューのエビデンスからわかることは?
不安障害やアルコール使用障害の人の治療に薬物療法が有効かどうかはわからなかった。2つの試験において、パロキセチンの治療を受けた社会不安障害患者では、プラセボを受けた患者(25.8%)と比較して、2倍以上の人(57.7%)が臨床的改善の兆候を示したが、エビデンスの質は非常に低かった。1つの研究では、ブスピロンが12週間の治療で不安障害の症状を軽減したと報告された。他の研究ではいずれも症状の軽減は見られなかった。薬物療法での治療は参加者に受け入れられるように見えたが、このことを示すエビデンスの質もやはり非常に低かった。パロキセチンやセルトラリンでの治療後には、性的な問題などの特定の副作用が多く報告されていた。治療がアルコールの使用に影響を与えたというエビデンスはなかった。
このレビューに含まれた研究で報告された結果を解釈することは困難であった。多くの参加者(全体で43.1%)が治療終了前に研究から脱落していた。さらに、報告されたアウトカムは正確でなかったり、薬の効果を示す測定指標を選択的に報告しているようであった。2つの研究は製薬会社の資金を受けており、薬が好ましいという結果を報告することにつながったかもしれない。
《実施組織》 阪野正大、瀬戸屋希 翻訳[2020.12.07]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD007505.pub2》