論点
子宮頸管は子宮の下端にあり、腟に繋がる細い首のような部位である。妊娠初期の子宮頸管は硬く拡張されていないが、妊娠期間を通じて徐々に軟らかくなっていく。陣痛中の子宮収縮に伴って子宮頸管が徐々に開く(拡張する)。陣痛が始まる前の帝王切開術における子宮頸管拡張術とは、人工的に子宮頸管を開くということである。これは術者によって、手袋をした指、スポンジ鉗子、その他の器具などを用いて行われる。
重要性
陣痛開始前の選択的帝王切開術において、子宮頸管拡張術が子宮からの血液の排出を助けると考える産科医がいる。排出を促せば、子宮内感染と産後異常出血のリスクを減少させるかもしれない。一方、器械的に子宮頸管を開くことにより、子宮が腟の微生物で汚染されたり、感染や子宮頸管の損傷リスクを増加させたりする可能性もある。陣痛開始前の選択的帝王切開において、器械的子宮頸管拡張術を行う場合と行わない場合を比較して、術後の出血や子宮感染に影響があるか明らかにすることを目的とした。
得られたエビデンス
2017年9月までに出版されたランダム化比較試験を対象にエビデンスを検索した。陣痛開始前に選択的帝王切開術を受けた合計2,227人を含む8試験を特定した。これらのうち、1,097人が二重手袋をした人差し指またはへガール拡張器(1試験)で子宮頸管拡張術を受け、1,130人は手術中の子宮頸管拡張術を受けなかった。
質が低度または非常に低度のエビデンスによると、子宮頸管拡張術が分娩後出血(推定出血量が1,000mlを超えるもの)、輸血の必要性、その他の出血評価、6週間以内の分娩後出血、発熱性疾患(定義された期間内に体温上昇を示した感染症)、子宮内膜炎(子宮の内壁の感染症)、子宮復古不全(産後に子宮が通常の大きさに戻らないこと)に影響を及ぼすかは不明であった。子宮頸管の損傷に関するデータはなかった。
当初のプロトコルに示されていなかったいくつかの評価項目について、器械的頸管拡張によりわずかな改善が認められたが、これらののエビデンスは1件または2件の研究に基づくものであった(平均出血量、子宮内腔の厚さ、妊娠組織の遺残、子宮切開創の歪み、治癒率)。子宮頸管拡張術は、創部感染、尿路感染、手術時間、感染症罹患率、子宮創部の完全性といった副次的評価項目(これらも当初のプロトコルには示されていなかった)についてもはっきりした影響がなかった。
結果が意味すること
子宮頸管拡張術が帝王切開術後の問題に影響を与えるかどうかについては不明である。これは、選択的帝王切開術の際に器械的に子宮頸管を拡張することが、術後の健康不良を減少させるか否かについて、十分なエビデンスはなかったということを意味する。
《実施組織》 内藤未帆、杉山伸子 翻訳[2021.11.05]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD008019.pub3》