レビューの論点
脳卒中発症後の腕の機能、歩行速度や日常生活における自立度といった評価項目を使用して、脳卒中後の回復に対して、バーチャルリアリティと代替治療または無治療の効果を比較したいと考えた。
背景
脳卒中を発症した後、多くの人が動作、思考、感覚の困難さを体験している。そのため、書字、歩行、運転のような日常生活で問題になることが多い。バーチャルリアリティとインタラクティブ・ゲームは、脳卒中発症後の人々に提供されている治療法の一種である。この治療法では、コンピュータによるプログラムを使って、実際の生活の中での物や出来事をシミュレーションしていく。バーチャルリアリティとインタラクティブ・ゲームは、病院の環境では実践できない、あるいは実践しづらい日常の活動を実践する機会を与えることができるため、従来の治療法に比べて利点があるかもしれない。さらに、バーチャルリアリティ・プログラムには、患者が受ける治療の時間を増やすことを意味する特徴がある。例えば、この活動によって、治療意欲があがるといったことである。
研究の特徴
脳卒中を発症した2,470人を対象とした72件の研究を特定した。様々なバーチャルリアリティ・プログラムが使用されたが、そのほとんどが腕の機能や歩行能力の向上を目的としたものであった。このエビデンスは2017年4月現在のものである。
主要な結果
22の試験では、従来の治療と比較してバーチャルリアリティの使用が腕の使用能力の改善につながるか検証されたが、バーチャルリアリティの使用は、機能の改善につながらないことがわかった(エビデンスの質は低い)。通常のケアやリハビリテーションに加えて、バーチャルリアリティを使用して治療に費やす時間を増やしたところ、腕の機能に改善が見られた(エビデンスの質は低い)。6つの試験では、従来の治療と比較してバーチャルリアリティの使用が歩行速度の改善につながるかどうかが検証された。今回のケースでは、バーチャルリアリティの方が効果的であるというエビデンスはなかった(エビデンスの質は低い)。10の試験では、バーチャルリアリティを使用した結果、シャワーや着替えなどの日常生活動作の能力が若干向上したというエビデンスが見られた(中程度のエビデンス)。しかし、これらの前向きな効果は治療終了後すぐに評価されたものであり、効果が長期にわたって持続するかどうかは明らかではない。研究数は多いものの、一般的に研究の規模が小さく、エビデンスの質も高いとは言えないため、結果の解釈には注意が必要である。バーチャルリアリティを使用した人の中には、痛み、頭痛、めまいなどを報告していることもあった。重篤な有害作用は報告されなかった。
エビデンスの質
エビデンスの質は全般に非常に低い、または中等度であった。それぞれの評価項目のエビデンスの質は、被験者の人数が少ない、そして研究の詳細の報告が不十分であったため、限定的であった。
《実施組織》冨成麻帆、小林絵里子 翻訳[2020.10.30]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD008349.pub4》