頭蓋咽頭腫は緩徐発育性のまれな良性腫瘍であり、視床下部-下垂体領域に発生する。この腫瘍は良性ーすなわち隣接組織への浸潤性発育や転移(他部位への腫瘍の広がり)はないーではあるが、手術で完全に取り切れたとしても患者には相当の障害、機能不全が残る。嚢胞性頭蓋咽頭腫は頭蓋咽頭腫のなかでも最もよくみられるタイプであり、充実性部分の中に液状物質で満たされた風船のような構造(嚢胞)を有している。問題となることだが、嚢胞は分泌液貯留のために拡大し、その結果、脳の各部位に圧力が加わり、障害を引き起こすことがある。この腫瘍には根治的切除(手術による腫瘍摘出)のみでは十分でない。なぜなら、術後再発率が高く、手術には次のような合併症・随伴症状リスクがあるためである。すなわち、内分泌障害や失明などの神経障害、食欲制御の低下、尿量低下、情緒的行動および身体的調整不全、記憶力低下、睡眠障害、成長および性的発達障害、サイロキシン濃度の低下、水頭症(頭蓋内圧が上昇した状態)、および死亡などである。成人では放射線療法が(追加の)術後補助療法として有効である一方、小児においては残存視力にさらに障害が加わること、成長後の知能指数(IQ)や複雑な作業の遂行能力が低下することなど、その後の人生で放射線療法の障害が生じる危険が高い。嚢胞内ブレオマイシン(嚢胞内に注入する化学療法剤の一種)投与は、嚢胞性頭蓋咽頭腫に随伴する障害を抑制する可能性があることから使用されてきた。
この系統的レビューでは(ランダム化)比較試験を対象とした。ランダム化比較試験(RCT)、準ランダム化比較試験、比較臨床試験(CCT)のいずれにおいても、介入群と対照群との相違が嚢胞内ブレオマイシン投与のみであるものは確認できなかった。ただし、嚢胞内ブレオマイシンと嚢胞内リン酸32(32P)投与(これはリン酸の放射性同位体による嚢胞内照射)を比較したRCTが1件あった。この試験ではわずか7例の小児を対象としていた。同試験はバイアスがかかっているリスクが高く、対象者数があまりに少ないため試験結果に差を見出すことは不可能であった。現在のところ、小児の嚢胞性頭蓋咽頭腫に対して嚢胞内ブレオマイシンを投与することの治療効果は不明である。有害事象全体では両治療群に有意差は認められないが、頭痛と嘔吐には有意差があり、32P群の方が良好である。しかしながら、エビデンスの質は非常に低い。質の高い試験がさらに必要とされるが、この種の腫瘍に罹患する小児が少ないため困難であろう。
《実施組織》一般社団法人 日本癌医療翻訳アソシエイツ(JAMT:ジャムティ)『海外癌医療情報リファレンス』(https://www.cancerit.jp/)ギボンズ京子 翻訳、 松本恒(放射線診断・インターベンショナルラディオロジー〈頭頸部〉、仙台星稜クリニック)監訳 [2018.05.10] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。 なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review、Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。《CD008890》