私たちは、出産直後の多量出血を予防または治療するために、妊婦にミソプロストールという薬を持たせておくことの安全性と有効性を検討した。
論点
産後24時間以内の出血量を減らすために、オキシトシンやエルゴメトリンという薬が一般的に使用される。これらの薬剤は、出産直後に注射で投与されるため、訓練を受けた医療従事者の立ち会いが必要となる。それらの薬剤は、効能維持のため冷蔵庫での保管も必要となる。
ミソプロストールは、出産後に子宮が強く収縮するのを助け、過剰な出血を抑える薬の1つである。経口投与が可能で、冷蔵保存の必要はない。そのため、オキシトシンやエルゴメトリンに比べて、冷蔵設備や訓練を受けた医療従事者がいない地域でも使用しやすい。ミソプロストールの主な副作用は、一般的に自然軽快するもので、追加の投薬は必要ない。
重要である理由
多量出血、すなわち分娩後出血は、依然として世界の妊産婦死亡の主要な原因となっている。これらの死亡のほとんどは、医療資源が乏しく、熟練した助産師の立ち合いがない自宅出産が一般的となっているアフリカやアジアの遠隔地で発生している。
ミソプロストールを妊娠中の女性や地域・一般の医療従事者が使用できるようにすることは、出産後の多量出血や死亡を避けるための手段となる。しかし、ミソプロストールは、自然分娩が始まる前に陣痛を誘発させるなど、他の目的で使用された場合には女性とその赤ちゃんに害を及ぼす可能性がある。
得られたエビデンス
2019年12月19日時点までのエビデンスを検索した。ウガンダの農村部で行われた2つの研究を特定した。これらの研究では、3,214人の女性が、ミソプロストール錠剤を受け取って保持する群と、出産後の多量出血予防の標準的なケアを受ける群に、ランダムに(偶然に)割り振られた。しかし、これらの研究に参加登録した女性のうち、私たちの研究目的であった、医療施設以外で出産した女性は570人だけだった。
1つの研究から得られた情報のほとんどは、出産場所(医療施設かどうか)ごとに分けられておらず、研究デザインの種類に応じて十分に調整されていなかったため、分析することができなかった。そのため、今回のレビューで分析された情報は、主にもう一方の研究結果を反映している。
この2つの研究では、深刻な妊産婦の健康障害や死亡は報告されていなかった。レビューの主要なアウトカムの1つである「1000mL以上の出血」は報告されていなかった。その他の結果は、ミソプロストールを投与しなかったグループにプラセボ(偽薬)を使用した1つの研究(参加者299名)によるものである。エビデンスの確実性は非常に低く、調査結果も様々だった。女性にミソプロストールを事前に提供しておくことが、ミソプロストールを使用した女性、正しく適切に使用した女性、医療施設に紹介された女性の数に影響を与えたかどうかは不明である。ミソプロストールを事前に提供された人と標準的な治療を受けた人との間で、副作用を経験した女性や転帰(状態)の悪い新生児の数に明確な差はなかった。
結果が意味すること
今回のアップデートは、医療施設以外の場所で出産後に使用するミソプロストール錠剤を女性に事前提供しておく方策の実現可能性を支持するものだが、このアプローチの利点に関するエビデンスはまだ不確かである。遠隔地での妊産婦死亡を減らす目的でこの方策を拡大するには、対象を絞ったモニタリングと評価、または不確実性を克服するための大規模な研究を通して、慎重に実施していくべきである。
《実施組織》 増澤祐子翻訳 重見大介監訳、[2021.3.13] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクラン日本支部までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review、Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。《CD009336.pub3》