疾患の予防および病状の長期管理を目的とした自動電話通信システム

背景

自動電話通信システム(ATCS)は、音声メッセージを患者に送り、相手のプッシュホン電話の数字キーまたは音声認識ソフトを用いて患者から健康情報を収集する。ATCSは医療従事者-患者間の電話による連絡に取って代わる、あるいはそれを補完するものとなりうる。ATCSには、音声メッセージを片方向で患者に届けるタイプ(非対話型)、対話型音声応答(IVR)システム、アドバイス照会などの機能を付加したタイプ(ATCS Plus)、または複合介入の一部としてATCSを採用しているもの(多モード型)など複数の種類がある。

レビューの論点

本レビューでは、疾患予防および長期にわたる疾患管理におけるATCSの有効性を評価した。

結果

予防医療および長期的な疾患管理の領域全般について、参加者総数400万人を上回る計132件の試験を見出した。

試験は複数の種類のATCSを多面的に比較していた。

一部の試験は、疾患全般で結果を報告していた。予防について、ATCSにより、予防接種の接種率は小児では向上し、若年者ではわずかに向上するが、成人ではその効果は不明である。また、多モードATCSにより、乳がん検診および大腸がん検診を受診する人の数が増加する。さらに、骨粗しょう症の検診受診率が上昇する可能性がある。ATCS Plusにより、子宮頸がん検診受診率がわずかに向上する可能性が高いが、骨粗しょう症検診率に及ぼす効果については明らかではない。IVRにより、6カ月までの大腸がん検診を受診する人の数が増加する可能性が高いが、乳がん検診の受診数にはほとんど影響がみられない。

ATCS(非対話型またはIVR)により、疾患の予防および管理のいずれにとっても重要な要素である予約受診の来院率が改善する可能性がある。

長期的な管理について、多モードATCSでは、服薬アドヒアランスに及ぼす影響は一貫していなかった。ATCS Plusにより、通常のケアよりも服薬アドヒアランスは改善する。対照群と比較して、ATCS PlusおよびIVRにより、アドヒアランスはわずかに改善するものの、非対話型ATCSでは肯定的な効果はほとんどないか、またはわずかに認められる可能性がある。臨床転帰を一貫して改善した介入はなかった。IVRにより、検査アドヒアランスが改善する可能性が高いが、ATCS Plusではほとんど効果がみられない可能性がある。

ATCSは特定の疾患でも用いられた。その効果は、状態およびATCSの種類により異なっていた。多モードATCSにより、がんの疼痛および慢性疼痛は低減する可能性が高いが、他の種類のATCSでは低減しない。ATCSを身体活動、体重管理、アルコールの摂取および糖尿病で用いた場合、転帰は多少改善する可能性がある。しかし、心不全、高血圧、精神的健康あるいは禁煙では、ほとんどまたは全く効果がみられない。 複数の領域(アルコールや薬物の乱用、中毒、喘息、慢性閉塞性肺疾患、HIV/AIDS、高コレステロール、閉塞性睡眠時無呼吸、脊髄機能障害、介護者の心理的ストレス)では、ATCSがどのような効果をもたらすのかを示す十分なエビデンスは得られていない。

4件の試験でのみ有害事象が報告された。エビデンスの確実性は多様であり(高い~非常に低い)、研究の限界により格付けを引き下げることが多かった。これは、今後の研究によって一部の知見が書き換えられる可能性を意味する。

結論

ATCSは一定の健康行動に変化をもたらし、健康転帰を改善し、医療受療の促進を図る上で、有望である可能性がある。

著者の結論: 

ATCSによる介入によって、予防接種、検診、予約受診の来院率および服薬アドヒアランスまたは検査アドヒアランスなどの複数の重要な領域において肯定的な影響が認められることから、ATCSは患者の健康行動に変化をもたらし、臨床転帰を改善し、医療受療を促進しうる。ATCSによる介入を日常の医療提供に組み入れる決断をするにあたっては、評価したATCS介入の多様な特質に合わせて、利用可能なエビデンスの確実性の程度およびさまざまな疾患全般に対する影響の大きさを熟考すべきである。ATCS介入の内容や提供方法を調査し、利用者の体験、とりわけ受容性に関する評価を行い、最も効果的で費用効率の高いATCSの種類を明らかにするため、さらに研究を重ねる必要がある。

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背景: 

自動電話通信システム(ATCS)は、音声メッセージを患者に送り、相手のプッシュホン電話の数字キーまたは音声認識ソフトを用いて患者から健康情報を収集することができる。ATCSは、さまざまな疾患の予防または処置のために取り合う医療従事者と患者間の電話による連絡を補完、あるいは取って代わるものとなりうる。ATCSには、単方向型(片方向、非対話型音声通信)、対話型音声応答(IVR)システム、専門家に助言を求めるなどの付加機能を備えたATCS(ATCS Plus)、および多要素介入の一部として呼び出しコールを送る多モードATCSの4つの異なる種類がある。

目的: 

疾患の予防および長期にわたる疾患管理を目的とするATCSが行動の変化、また臨床、経過、認知に関わる患者中心の転帰あるいは有害な転帰に及ぼす影響を評価する。

検索戦略: 

10件の電子データベース(Cochrane Central Register of Controlled Trials、MEDLINE、Embase、PsycINFO、CINAHL、Global Health、WHOLIS、LILACS、Web of Science、ASSIA)、3件の灰色文献ソース(Dissertation Abstracts、Index to Theses、Australasian Digital Theses)および2件の臨床試験登録システム(www.controlled-trials.com、www.clinicaltrials.gov)より、1980年から2015年6月までに発表された論文を検索した。

選択基準: 

ATCSによる介入を、対照または他の種類のATCSと比較するランダム化試験、クラスターランダム化試験、準ランダム化試験、分割時系列研究および前後比較研究を適格試験として組み入れた。あらゆる種類の設定、患者/介護者、予防的ヘルスケアまたは長期の疾患管理用途を適格対象とした。

データ収集と分析: 

コクランの標準的な方法を用い、データの選択と抽出、適格試験の評価を行った。

主な結果: 

132試験を組み入れた(参加者数:4,669,689例)。これらの試験は複数の臨床領域にまたがっており、比較評価の対象となったATCSの種類、対照群も多様であった。41件の試験では予防医療を提供するATCSを、84件の試験では長期にわたり疾患を管理するATCSを、7件の試験では受診日リマインダーを提供するATCSを評価していた。多くのアウトカムについてバイアスのリスクが認められることを主な理由に、エビデンスの確実性の格付けを下げた。割付け過程で生じるバイアスのリスクに関して、半数以上の試験については低リスクと判定し、残りの試験については不明と判定した。盲検化に起因する施行バイアスまたは検出バイアスのリスクは、ほとんどの試験で不明としたのに対し、16%のみが低リスクであると判定した。欠測値および転帰の選択的報告に起因するバイアスのリスクは、総じて不明と判定した。

予防医療について、ATCS(ATCS Plus、IVRおよび単方向型)は小児の予防接種率向上に寄与する可能性が高く(リスク比[RR]1.25、95%信頼区間[CI]1.18~1.32、5試験、参加者数10,454例、中等度の確実性)、小児に比べて程度は小さいものの若年者の予防接種率向上にも貢献する可能性が高い(RR 1.06、95%CI 1.02~1.11、2試験、参加者数5725例、中等度の確実性)。ATCSがもたらす効果は、成人では不明である(RR 2.18、95%CI 0.53~9.02、2試験、参加者数1743例、非常に低い確実性)。

検診について、多モードATCSによって、通常のケアよりも乳がん検診受診率(RR 2.17、95%CI 1.55~3.04、2試験、参加者数462例、高い確実性)および大腸がん(CRC)検診受診率(RR 2.19、95%CI 1.88~2.55、3試験、参加者数1013例、高い確実性)が向上する。骨粗しょう症検診受診率も向上する可能性がある。ATCS Plusによる介入によって、子宮頸がん検診受診率はわずかに向上する可能性が高いが(中等度の確実性)、骨粗しょう症検診率に及ぼす効果は明らかではない。IVRシステムにより、6カ月時のCRC検診受診率は向上する可能性が高いが(RR 1.36、95%CI 1.25~1.48、2試験、参加者数16,915例、中等度の確実性)、9カ月時および12カ月時の受診率に改善は認められず、効果はほとんどないか全くない可能性が高い(RR 1.05、95%CI 0.99~1.11、2試験、参加者2599例、中等度の確実性)。単方向型ATCSが乳がん検診受診率に及ぼす影響も、ほとんどないか全くない可能性が高い。

単方向型ATCSまたはIVRを通じて届ける受診日リマインダーは、呼び出しコールを送らない場合と比較し、来院率を向上させる可能性がある(低い確実性)。長期管理については、服薬アドヒアランスまたは臨床検査アドヒアランスに関するエビデンスが疾患全般にわたり最も共通していた(25試験、データは統合せず)。多モードATCSを通常のケアと比較したところ、服薬アドヒアランスに及ぼす影響は一貫していなかった(肯定的および不明)。ATCS Plusにより、服薬アドヒアランスは若干(vs.対照、中等度の確実性)またはおそらく(vs.通常のケア、中等度の確実性)改善するが、検査アドヒアランスについては、対照と比較しほとんど効果が認められない。IVRにより、対照よりも服薬アドヒアランスがわずかに改善する可能性が高い(中等度の確実性)。IVRは、通常のケアよりも検査アドヒアランスを改善する可能性が高く、6カ月までは服薬アドヒアランスがわずかに改善するものの、それ以降は効果がほとんどまたは全く認められない(中等度の確実性)。単方向型ATCSは対照群と比較し、服薬アドヒアランスに及ぼす影響はほとんど認められない、またはわずかに改善する可能性がある(低い確実性)。アドヒアランスとの関連がある臨床転帰(血圧コントロール、血中脂質、喘息コントロール、治療対象範囲)に及ぼす影響については、いずれの種類のATCSでもほとんどまたは全く一貫していないことがエビデンスにより示唆されたが、臨床転帰データを有する試験は少数のみであった。

上記の結果は、疾患全般にわたり最も共通した結果が得られた領域に焦点を当てている。疾患特有の領域においては、用いたATCS介入の種類などに応じてATCSの効果は多様であった。

多モードATCSは、がんの疼痛および慢性疼痛と同様に抑うつを低減する可能性が高い(中等度の確実性)が、他の種類のATCSでは効果の程度は低かった。介入の種類により、身体活動、体重管理、アルコール摂取量および糖尿病の転帰に及ぼすATCSの影響は小さくなる可能性がある。心不全、高血圧、精神的健康または禁煙との関連がある転帰にATCSが及ぼす影響はほとんどまたは全く認められず、アルコールや薬物の乱用防止、違法ドラッグ中毒、喘息、慢性閉塞性肺疾患、HIV/AIDS、高コレステロール血症、閉塞性睡眠時無呼吸、脊髄機能障害または介護者の心理的ストレスの管理に対する効果について、判断に足るエビデンスは得られていない。

4試験(3%)のみで有害事象が報告されていたが、介入との関連の有無は不明であった。

訳注: 

《実施組織》コクラン日本支部 渡辺 範雄監訳 [2017.01.13]⏎ 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクラン日本支部までご連絡ください。 なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review、Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD009921》

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