バーチャルリアリティの統合失調症の治療における効果を示すために、調査が必要

統合失調症を持つ人々は、思考や理解のプロセスに問題を抱えていることが多く、それは自分の病気に気付くことや、考えをまとめることの困難を引き起こしている。これに加え、薬の不快な副作用を経験することは、メンタルヘルスの問題を抱える人がしばしば薬を飲まなかったり、治療に消極的だったり、予約された診察に来なかったりする原因になり得る。そのため、時にはメンタルヘルスの専門家チームとの連絡が取れなくなり、再発してしまうこともある。バーチャル・リアリティ(VR)とは、視覚的なグラフィックや音などの感覚的な刺激を用いて、インタラクティブなコンピュータの世界を作り出す、現代的で実験的な、コンピュータ制御によるリアルタイムの技術である。例えば、手や指に装着したセンサーを使って、バーチャルリアリティのユーザーが自分の位置や動きを把握できるようにすることなどが含まれる。バーチャルリアリティは、実生活や日々の活動を模したコンピュータ制御の環境を作り出す。これにより、安全で親しみやすい環境の中で、人々が治療に対する判断や態度を改善するのを助け、予定通りに薬を飲むのを促せるかもしれない。

これまでにバーチャルリアリティは、飛行機恐怖症、人前で話すことへの不安、クモ恐怖症、心的外傷後ストレス障害など、さまざまな精神疾患や社交不安のアセスメントや治療に用いられてきた。幸せ・中立・怒りの感情を表現したキャラクターを用いてコンピュータシミュレーションを行い、統合失調症を持つ人の情動反応を調べた研究もいくつか存在する。またバーチャルリアリティは統合失調症を持つ人に対して、ソーシャルスキルトレーニングの中で用いられたり、思考や理解のプロセスを改善させる目的で利用されたりしている。このレビューでは、重度精神疾患を持つ人の治療や服薬を支援するためのバーチャルリアリティの効果について調査した。

最新のランダム化試験の検索が2013年9月に実施されたが、合計156人が参加した3件の短期間の研究しか組み入れることができなかった。統合失調症を持つ参加者は、a) バーチャルリアリティを用いたスキルトレーニング、b) 他の方法を用いたスキルトレーニング、c) 標準治療のいずれかに無作為に割り付けられた。試験から得られたエビデンスはすべて質が低く、実質的な効果は認められなかった。現在のところ、精神疾患を持つ人の服薬を促すためにバーチャルリアリティを利用することに対する明確なエビデンスは存在しない。重度精神疾患を持つ人に対してバーチャルリアリティを利用するとしたら、それは実験的なものになるだろう。精神疾患を持つ人に対するバーチャルリアリティの効果について、良質な情報をより多く集める必要があり、質の高い研究を行う必要がある。現段階では、バーチャルリアリティは実験的で新しく、革新的だが、その効果はほとんど検証されていない。

この要約はRETHINKのサービス利用者Ben Grayによるものである。

訳注: 

《実施組織》 五十嵐百花 翻訳, 佐藤さやか 監訳 [2021.4.15] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所地域・司法精神医療研究部(以下、NCNP精研地域部;cochranereview.ncnpcmhl@gmail.com)までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。NCNP精研地域部では最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD009928.pub2》

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