レビューの論点
医師は、従来行っていた術後の疼痛管理ではなく、局所に対する鎮痛〔神経や手術部位の近くに局所麻酔薬を注射する方法(訳注:神経の近くに注射する方法は区域麻酔ともいわれる)〕を使用することができる。この局所麻酔薬を使うという選択肢は、待機的な大きな関節(膝関節、肩関節、股関節)の人工関節置換術後の長期的な機能を改善するのだろうか。この系統的レビューは、医療費を抑制し、医学的な処置の価値を示す取り組みの中で、局所に対する鎮痛を行うことに関する論争を探るために実施したものである。
背景
膝関節・肩関節・股関節の人工関節置換術は、その関節の可動性や痛み、機能を改善するために実施される。局所麻酔薬は、手術後の痛みを軽減するために、神経や手術部位の近くに注射するものである。局所鎮痛は、手術直後の数日間において、より良い手術成績(関節の可動域、筋力、歩行能力、階段の上り下りなど)につながることが示されてきた。しかしながら、この効果が3か月を超えても続くのかどうかは分かっていない。
研究の特性
我々は、電子データベースや抄録を検索し、関連する研究を検索した。検索は、2015年6月に最終更新された。計350人を対象とした、最低3ヶ月間の追跡調査を行った、6件の研究を同定した。これらの研究はすべて、膝関節の人工関節置換術を受けた人を対象としていた。
主な結果
それぞれの研究が同じ評価項目を報告している訳ではなかったので、結果を統合することは困難であった。人工膝関節全置換術後の機能向上を目的とした、局所鎮痛の効果を研究した6件のランダム化比較試験のうち、3件のみがデータを統合できた。140人の対象者から得られたデータを統合し、術後3ヵ月の可動域を評価したところ、局所麻酔薬を使用した局所鎮痛と、従来の静脈内投与による疼痛管理を行った場合とに、統計学的に有意な差は認められなかった。
対象とした研究では、持続的な神経損傷のような、長期的な有害作用を検討したものはなかった。
エビデンスの質
我々は、含まれている研究の質が高いとは考えられず、参加者も非常に少数であったため、エビデンスの質は非常に低いと判断した。
結論
区域麻酔によって大きな関節の人工関節置換術後の機能が向上するかどうかに関する情報は不十分である。肩関節・股関節・膝関節の人工関節全置換術の術後成績に対して、局所鎮痛の効果があるかどうかを判断するためには、より良い臨床試験が必要である。局所鎮痛が人工関節置換術後の転倒リスクを増加させるかどうかを理解するためには、より多くの研究が必要である。
《実施組織》杉山伸子 翻訳、井上円加 監訳[2020.4.22]
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《CD010278.pub2》