生殖補助医療のための高度な精子選別技術

レビューの論点

我々は、生殖補助医療において、超高倍率観察下での選別以外の高度な精子選別技術が、出生率や臨床妊娠率、流産率あるいは胎児異常の頻度を変えるかどうかについて検討した。

背景

体外受精(IVF)は、顕微授精(ICSI:卵子の中に精子を注入する方法)をするかどうかにかかわらず、不妊症カップルに対して一般的に行われる治療法である。良好な精子を選択することで、これらのカップルのアウトカムを改善できる可能性があると考えられている。高度な精子選別技術は、受精させる際に、健康で成熟し、構造的に健全な精子を選択するために複雑な方法をとる。世界中の多くの治療施設でこれらの技術が用いられているにもかかわらず、その有効性は不明である。

研究の特性

8件のランダム化比較試験(2つ以上の治療群のいずれかに参加者を無作為に割り当てる研究)をレビューに組み込み、合計4147人の女性を対象とした。4つの研究では、顕微授精(ICSI)に対して、顕微授精中にヒアルロン酸に結合する能力によって精子を選別する方法(HA-ICSI)の効果を評価した。1つの研究では、HA-ICSIとSpermSlow(精子不動化・成熟精子ピックアップ用メディウム)とを比較していた。他の1つの研究では、HA-ICSIと磁気活性化細胞選別術(MACS)、およびICSIを比較していた。3つの研究は、MACSとICSIを比較した。残る1つの研究は、表面にゼータ電位の荷電で精子を選別する方法(ゼータ法)とICSIとを比較していた。これらのうち6つの研究では出生率を報告していた。7つの研究では臨床妊娠率を、6つの研究では臨床妊娠1件あたりの流産および無作為に割り当てられた女性ごとの流産について報告した。胎児の異常について報告した研究はなかった。

主な結果

現在得られるエビデンスでは、生殖補助技術(ART)において高度な精子選別技術を用いても出生率の向上につながらない可能性があることが示唆された。もしかしたら出生率と臨床妊娠率を増加させるかもしれない唯一の精子選別技術は、ゼータ法による精子選別であった。しかし、この結果は、質が非常に低い単一の研究から得られたものであるため、我々は確信が持てない。HA-ICSIは、ICSIと比較して流産率を下げるという、低度の質のエビデンスが得られた。他の精子選別技術が臨床妊娠率や流産率を変えるかどうかは不明である。胎児の異常に関する研究は報告されていない。そして、これらの高度な精子選別技術のうちどれかが臨床現場での使用が推奨されるようになるにしても、その前に適切な質を担保した更なる研究が必要である。

エビデンスの質

エビデンスの質は、非常に低度から低度であった。主な限界は、対象となった女性の人数、妊娠・出生などのイベント数が少ないことと、パフォーマンスバイアスのリスクが高いという不正確さによるものである。胎児の異常など、重要な臨床結果に関するデータは存在しなかった。

訳注: 

《実施組織》杉山伸子 小林絵里子 翻訳[2020.03.27]
《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 
《CD010461.pub3》

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