母体のアウトカムを改善させるための、経腟分娩における出血量の推定方法

論点

分娩後異常出血(postpartum haemorrhage, PPH)は世界的にも主要な母体死亡の原因であり、特に低所得国に多い。分娩後異常出血がおこりやすいのは児娩出から胎盤および卵膜が娩出されるまでの分娩第三期である。分娩介助者はこの間に、母体の出血がどの程度であったか評価する。

重要である理由

児の娩出後には常に多少の出血が認められるが、これが著しい場合に分娩後異常出血(PPH)と呼ばれる。重篤な分娩後異常出血は母体の健康を損ね(母体合併症)、時には母体死亡にも至る。特に低所得国および中所得国によくみられる。著しい出血が早く判断されれば、出血を食い止めるような治療を早く始められ、母体のアウトカムを改善することができる。このため、分娩後の出血量を測定する、低所得国や中所得国を含むあらゆる分娩の環境において実用的な最善の方法を明らかにすることが重要となる。

多くの場合、分娩介助者は出血を見ることでその量を推定する(視覚的推定)。これは正確性には欠けるが、あらゆる環境で可能である。他の方法として、分娩介助者が浅い盆を母体の臀部の下に置き、集めた出血の重さを測り、他のパッドや資材に染みこんだものと合計するというものがある。これは間接的方法と呼ばれる。すでに考案されている直接的方法の一つに、「calibrated delivery drape(血液測定用分娩ドレープ)」なる、母体の臀部から腰までに敷いて、母体の足の間に下げた目盛付きの漏斗状の部分に血液を受けるというものがある。他には色素希釈法や放射性物質を用いた方法などがあるが、これらは多くの分娩の環境においては実用的でない。

得られたエビデンス

2018年2月までのエビデンスを検索し、26,000人以上を含む3つのランダム化比較試験を認めた。2試験を解析の対象とした;1試験は本デビューで対象とするあらゆるアウトカムについてのデータを示していなかった。全ての試験が病院において行われたものだった。2試験がインドで、もう1つの試験がヨーロッパの13か国で行われた。それぞれが異なる方法で出血量を推定していた。

1試験(ヨーロッパの13カ国で行われた、25,000人以上を含むもの)がcalibrated drape(直接推定)と視覚的推定(間接推定)を比較していた。患者が重篤な状態(凝固障害、肝・腎・脳の機能低下、ICU入院)に陥るリスク、輸血の必要性、血圧を維持するための輸液、止血のための子宮収縮薬の使用については方法によってほとんど違いがないか、あっても軽微であった。このエビデンスの質は中等度であった。この試験では分娩後の貧血や500ml以上の出血、感染については報告されていなかった。

1試験(インド、900人)はcalibrated drape(血液測定用ドレープ、直接推定)と重量測定(間接的手法)を比較していた。出血が500ml以上かどうかについてを判断するには、calibraed drapeが重量測定よりも優れていた。このエビデンスの質は高度であった。輸血や血圧維持のための輸液が必要かどうかについては、ほとんど違いがないか、あっても軽微であった。このエビデンスの質は低度であった。止血のための子宮収縮薬使用についてはほとんど違いがないか、あっても軽微であった。このエビデンスの質は高度であった。この試験では分娩後の貧血や感染、重篤な状態(凝固障害、肝・腎・脳の機能低下、ICU入院)に陥るリスクについては報告されていなかった。

意味するもの

経腟分娩後の出血量を推定する方法について、ある方法が他の方法よりも優れているという事を示すエビデンスは不十分であった。このレビューに挙げられたような主要なアウトカムを評価する、質の高い試験が必要である。

訳注: 

《実施組織》内藤未帆、増澤祐子 翻訳[2018.10.27] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review、Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。《CD010980》

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