根治目的の手術後または放射線治療後の I~III期 非小細胞肺がんに対する免疫療法の延命効果

レビューの論点

生体の免疫システムはがん細胞を攻撃する。免疫システムを助ける治療法(免疫療法)は 、根治を目的とした手術または放射線治療を受けた非小細胞肺がん(NSCLC)患者の生存期間を延長するか。

背景

根治を目的とした手術または放射線治療を受けたNSCLC患者の多くが、もともとあったがんが肺に再発するか、あるいは体の別の部位に転移して最終的には死に至る.。免疫療法によって患者の余命が長くなるかどうかを検討した試験は長年の間に数多くあり、効果を示した試験もあれば、示さなかった試験もあると思われる。

研究の特性

4つのコンピュータデータベースと5つの臨床試験登録から2021年5月19日までの試験を検索した。患者が異なる治療法に無作為に割り付けられており(ランダム化比較試験、RCT)、腫瘍検体検査により確定診断された早期NSCLC(I ~III期)の成人(18歳以上)を対象としたあらゆる試験を検索した。その結果、手術または根治的放射線治療を受けた計5,000人を超える患者が免疫療法群あるいは無治療群のいずれかに無作為に割り付けられたRCT 11件が抽出された。

主な結果

免疫療法は主にワクチンをベースとする(宿主の免疫システムを活性化して、腫瘍特異抗原に対するヒト免疫応答の誘導を目的とする)ものであったが、術後または放射線治療後に免疫療法を投与しても患者の生存期間は改善されないことがわかった。ワクチンベースの免疫療法を受けた患者に、他の患者よりも副作用が多くみられたわけではないようであった。免疫療法を追加することによって生活の質(QOL)が改善したかどうかがわかる結果は得られなかった。現時点では I~III 期の局所NSCLC患者に対する免疫療法(主にワクチンベース)を支持すべきか否かについてはエビデンスがない。さらに期待できる新規の免疫療法薬(チェックポイント阻害薬など)のRCTが複数進行中である。

エビデンスの質

エビデンスの質は、全生存期間については高く、無増悪生存期間については中等度であった。1年、2年、3年、5年の生存率については、中等度か低いにとどまった。これは本レビューの対象としたRCTがあまり良質ではなく、結果に整合性がみられなかったためである。有害事象については、全グレードおよび重篤な有害事象のいずれもエビデンスの質は低かった。

訳注: 

《実施組織》一般社団法人 日本癌医療翻訳アソシエイツ(JAMT:ジャムティ)『海外がん医療情報リファレンス』(https://www.cancerit.jp/) 武内 優子 翻訳、川上 正敬(東京大学医学部付属病院呼吸器内科)監訳 [2022.01.25] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクラン・ジャパンまでご連絡ください。 なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review、Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。《CD011300.pub3》

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