成人重症患者のせん妄治療のための薬剤

レビューの論点

病院の集中治療室(ICU)でせん妄が認められる成人重症患者の治療に使用される全処方薬の有用性と安全性に関するランダム化比較試験を対象に、エビデンスのレビューを行った。

背景

せん妄は手術、感染症または重症疾患に伴うことが多い。それまでに経験したことのない、一般に短期間ではあるが、はっきりと考えることができない状態である。せん妄を発症した患者には、意識がはっきりしている時期と不穏(落ち着きのなさ)や過度の眠気、錯乱(考えや思考の混乱)がみられる時期が交互に現れる。その原因には、睡眠不足、痛み、騒がしい環境、身体拘束(行動の制限)のほか、鎮静薬や強い鎮痛薬の使用などがある。 せん妄は、患者に人工呼吸器を要する期間や、集中治療室の在室期間および入院期間を長引かせ、さまざまな機能低下や死亡に至る可能性さえ高まることがあるため、即時にも長期的にも重症患者の健康アウトカム(心身の健康状態やQOLなどを含む)に影響を及ぼす。せん妄によって悪い結果に至る可能性は、虚弱な患者、高齢ですでに認知機能障害がある患者でさらに高くなる。 せん妄があるICU患者には、不穏などの症状を抑えるために薬剤を投与することが多い。

試験の特性

本レビューは2019年3月21日現在のものである。成人患者計1,844人を登録したランダム化比較試験14件が見つかり、6種類の薬剤が検討されていた。具体的には、精神安定薬として抗精神病薬(試験10件)、鎮静薬としてα2刺激薬のデクスメデトミジン(3件)、コレステロールを低下させるスタチン系薬剤(2件)、疼痛管理の一部としてオピオイド鎮痛薬(1件)、悪心(吐き気)と嘔吐に対してセロトニン拮抗薬(1件)、アルツハイマー病治療薬でもあるコリンエステラーゼ阻害薬(1件)が検討されていた。 このうち10件の試験が各薬剤をプラセボ(砂糖錠としても知られる偽薬)と比較しており、4件は別の薬剤と比較していた。 本レビューの主な評価項目であるせん妄の期間に関しては、11件の試験(患者数1,153人)が報告していた。 

主な結果

各薬剤をプラセボと直接比較したところ、せん妄の期間が短くなるのはα2刺激薬のデクスメデトミジンのみであり、コリンエステラーゼ阻害薬のリバスチグミンはせん妄期間を延長することがわかった。それぞれの結果は小規模試験1件の所見に基づくものである。他の薬剤では、プラセボと比較してもせん妄期間は変わらなかった。レビュー著者らはネットワークメタアナリシスという統計手法を使って6種類の薬剤を比較した。せん妄期間を短縮するには、デクスメデトミジンが最も効果的であり、次いで非定型抗精神病薬という順位であった。ただし、せん妄期間に関するネットワークメタアナリシスでは、6種類の薬剤全部について、プラセボと比較して差がない可能性を否定できなかった。この解析方法では、いずれの薬剤でも、昏睡期間、入院期間、長期の認知機能評価および死亡に改善は認められなかった。人工呼吸器の使用期間はα2刺激薬のデクスメデトミジンによって短縮された。レビューの対象とした試験には有害事象の報告がないことが多く、報告されていてもまれであった。報告のあった有害事象を解析したところ、いずれもプラセボを使用したときの有害事象と同等であったことが示された。進行中の試験が10件、分類待ちの試験が6件あることがわかっており、各試験が発表されて評価されれば、本レビューの結論が変わる可能性もある。

エビデンスの質

レビューの対象とした試験のほとんどが小規模ではあったが、よい試験デザインであった。試験14件のうち9件はバイアスのリスクが低いと考えられた。

訳注: 

《実施組織》 ギボンズ京子 翻訳、冨成 麻帆 監訳[2020.02.09]
《注意》 この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 
《CD011749.pub2》

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