体外受精(IVF)で妊娠を希望する女性にとって、ホルモン剤を個別に調整して投与することはどの程度効果があるのだろうか?

要点

生児出産または卵巣過剰刺激症候群(OHSS)のいずれについても、ホルモン剤の投与量を決めるための卵巣予備能検査を用いることを支持あるいは否定する明確なエビデンスは得られなかった。

今後の研究では、くり返される治療の経過にわたって、ホルモン剤の投与量を決めるために卵巣予備能検査を用いることの影響を評価できるだろう。

体外受精における卵巣刺激薬の個別化とは何か?

体外受精(IVF)は、女性の体外で卵子と精子を結合(受精)させる生殖補助医療技術をさす。一般的に体外受精を行う周期では、医師は卵子の成熟を促すホルモン剤を女性に投与する。これは卵巣刺激と呼ばれる。

体外受精(IVF)を行う周期を計画する際には、卵巣刺激薬(ホルモン剤)の投与量は、女性ごとに年齢など特定の因子に基づいて決定される。卵巣刺激に対する反応をよりよく予測できるかもしれない新しい検査が開発されてきた。これらを卵巣予備能検査と呼ぶ。卵巣に利用可能な卵子がいくつあるかを測定するものである。それぞれの卵巣予備能検査の結果に基づいて卵巣刺激薬の投与量を調整することが、妊娠や出産の可能性を高めるのに役立つかどうか、あるいは検査が、重症OHSSのリスクを減らすといった体外受精周期の安全性を高めるのに役立つかどうかは分かっていない。

何を調べようとしたのか?

特定の因子に基づいてそれぞれの女性に合わせた卵巣刺激を行うことが、標準的な投与量と比較して、以下の点で優れているかどうかを確認したかった。

- 生児出産の可能性を高めるか;

- OHSSを予防できるか;

- 妊娠する可能性を高めるか。

実施したこと

個別化した卵巣刺激を標準的な投与と比較した研究、または別の個別化投与と比較した研究を検索した。研究結果を比較してまとめ、研究の方法や規模などの要素に基づいて、エビデンスの信頼性を格付けした。

わかったこと

計8,520人の女性が参加した26件の研究を特定した。これらを2つの比較にグループ分けした:

- 直接投与量比較試験では、卵巣予備能検査に基づいて、体外受精周期での卵巣刺激に対する反応が不良、正常、過剰のいずれかになると予測された女性を対象とした。卵巣刺激薬(ホルモン剤)の投与量の違いが体外受精の成績に影響するかどうかを調べるために、その後、女性を無作為に異なる投与量の卵巣刺激ホルモンに割り付けた。

- 卵巣予備能検査に基づく投与量選択試験では、卵巣予備能検査に基づいて卵巣刺激薬の投与量が決められた女性と、標準投与量または別の因子に基づいた投与量を受ける女性とに分けられた。

直接投与量比較試験の主な結果

卵巣予備能検査に基づいて、卵巣刺激に対する反応が不良または正常と予測された女性については、刺激薬の投与量を増やすことが妊娠の可能性、出産の可能性、OHSSを発症するリスクに影響するかどうかは不明であった。しかしながら、対象となった研究は小規模で、さまざま投与量の薬剤を比較したものであった。反応が不良と予測された女性の場合、150IUの卵巣刺激薬を投与された後に生児を出産する可能性が16%とすると、300または450IUを投与された場合の確率は13~26%となる。反応が正常と予測された女性の場合、150IUの卵巣刺激薬を投与された後に生児出産または妊娠継続の可能性が29%とすると、200または225IUを投与された場合の確率は22~36%となる。

刺激に対して過剰な反応を示すと予測された女性の場合、刺激量を減らしても、出産する可能性に影響する可能性もあるし、影響しない可能性もある。100IUの卵巣刺激薬を投与された後に生児を出産する可能性が25%とすると、150IUを投与された場合の確率は18~33%となる。卵巣刺激薬の投与量を減らせば、OHSSの発生率を減らせるかもしれない。低用量の卵巣刺激薬の投与で中等症から重症のOHSSの可能性が1.6%とすると、高用量の投与での確率は1.3~9.6%となるが、この結果は不確実である。

卵巣予備能検査に基づく投与量選択試験の主な結果

投与量の選択に卵巣予備能検査を使用した場合、妊娠継続や生児出産の確率に明らかな減少は見られなかったが、利益があるかどうかは不明である。卵巣予備能検査を用いた投与量の選択を異なる方法で行うと、他の方法と比べて効果が高かったり低かったりするかもしれない。標準的な開始用量で妊娠継続または生児出産の可能性が25%とすると、卵巣予備能検査に基づく投与ではその確率は25~31%となる。個別に投与量を決めると、すべての女性に同じ量の刺激薬を投与した場合と比較して、OHSSになる確率を減らせるようだが、このエビデンスに対する信頼性は低い。標準的な開始用量で中等症または重症のOHSSが起こる可能性が5%とすると、卵巣予備能検査に基づく投与での確率は2~5%となる。

エビデンスの限界

エビデンスの確実性は、非常に低いか低かった。その理由は、研究デザインの限界(研究実施者や参加した女性がどの治療群に割り付けられたかを知っていることが多い)や統計学的不正確さである。すなわち、生児出産などの最重要評価項目に対する明確な結果を得るには、研究に参加した女性の数が少なすぎた。

本エビデンスの更新状況

このレビューは前回のレビューを更新したものである。エビデンスは2023年2月現在のものである。

訳注: 

《実施組織》杉山伸子、小林絵里子 翻訳 [2024.12.03]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD012693.pub3》

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