アントラサイクリン系とタキサン系は、早期乳癌患者に対して術前あるいは術後に用いられる化学療法薬の分類である。
本レビューの目的
早期乳癌(癌が乳房に近いリンパ節を超えて広がっていない)の患者に対し、タキサン系の化学療法をアントラサイクリン系の(後ではなく)前に行うと治療成果が変わるかを検証した。
タキサン系をアントラサイクリン系に追加する利点は十分に確立されているが、タキサン系をアントラサイクリン系の前に投与するのか後に投与するのかという順番が、患者の生存期間や乳癌の無再発期間、治療完遂率、副作用、さらには生活の質(QOL)に影響をおよぼすのかは明らかでない。
本レビューの主な結果
タキサン系とアントラサイクリン系化学療法が投与される順番は以下の結果にはほとんど影響しなかったと思われる。
– 生存期間
– 乳癌が再発するまでの期間(無再発期間)
– 治療完遂率
– 治療の副作用
生活の質(QOL)に関するデータを報告した試験はなかった。試験の多くは、患者の生存期間や乳癌が再発するまでの期間など、重要な治療成果を報告していなかった。本レビューの更新版に含めるため、乳癌患者112例に術前化学療法を行った試験結果の公表が待たれる。
要約すると、タキサン系とアントラサイクリン系による化学療法を投与する順番によって利点や害が生じるのかについては十分なエビデンスが得られなかった。本レビューで検証したエビデンスに基づくと、多くの施設では、アントラサイクリン系に続いてタキサン系を投与することが標準的に行われているようである。現在入手可能なデータはこの通常のやり方の変更を支持するものではなかった。
このレビューからわかったこと
がん再発のリスクが高い早期乳癌女性に対し、再発リスクの抑制と生存期間延長のためにアントラサイクリン系とタキサン系を併用して術前または術後に化学療法を行うことがよくある。以前からアントラサイクリン系が最初に、次にタキサン系が投与されているが、この投与の順番については強力なエビデンスがない。そこでタキサン系を最初に投与し、次にアントラサイクリン系を投与する治療法を、アントラサイクリンを最初に投与する標準的な治療法と比較した。
レビューの主な結果
試験の参加者はすべて女性であった。術前に化学療法を行った試験5件、1,415例を組み入れた。各試験で使用されたタキサン系の薬剤はパクリタキセルが3件、ドセタキセルが2件であった。アントラサイクリン単剤(エピルビシン)は2件、エピルビシン、シクロホスファミド、フルオロウラシルの併用は3件であった。乳癌の術後に行うタキサン系とアントラサイクリン系化学療法の投与順序を比較した試験も4件(280例)あった。この4件で使用されたタキサン系の薬剤はすべてドセタキセルであったが、アントラサイクリン系の薬剤としてはエピルビシンまたはアドリアマイシンに、シクロホスファミドかフルオロウラシル(または両方)を併用した組み合わせであった。
タキサン系の投与順に関する主な結果:
– 術前化学療法を行った患者では、生存期間や癌再発リスクに関し、おそらくほとんどまたは全く差はなかった。
– 術前化学療法を行った患者では、化学療法による腫瘍縮小程度は、おそらくほとんどまたは全く差がなかった。
– 術前化学療法を行った患者の副作用にはほとんどまたは全く差がみられなかったかもしれないが、術後化学療法を行った患者では、タキサン系を最初に投与した場合に好中球減少(白血球数の減少)のリスクが抑制された。検証を行った副作用は、好中球減少症と神経毒性(神経の損傷)であった。
乳癌に対し術後化学療法を行った患者では、化学療法の投与スケジュールの遅延の割合に、差はおそらくほんとどまたは全くみられなかった。
多くの試験が、生存や癌再発、あるいは健康全般(生活の質)に関するデータ収集や報告を行っていなかった。本レビューに使用可能なデータの報告がない研究もあったため、これらの試験を行った研究者らからの回答が待たれる。
本レビューはどれくらい最新のものなのか。
本レビューの著者らは、2018年2月までに出版された試験を検索した。
《実施組織》一般社団法人 日本癌医療翻訳アソシエイツ(JAMT:ジャムティ)『海外癌医療情報リファレンス』(https://www.cancerit.jp/)大倉綾子 翻訳、原文堅(がん研有明病院乳腺センター)監訳 [2019.04.28] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクラン・ジャパンまでご連絡ください。 なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review、Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。《CD012873》