なぜ皮膚がんの診断の改善が重要なのか?
皮膚がんには多くの種類がある。黒色腫は最も危険な型の一つであり、早期に発見して切除できるようにすることが重要である。最初に医師の注意を引いた時に気づかれなかった場合(偽陰性の検査結果としても知られている)、治療が遅れ、その結果、黒色腫が体内の他の臓器に転移し、早期に死亡する可能性がある。皮膚扁平上皮がん(cSCC)および基底細胞がん(BCC)は、通常、限局性の皮膚がんであるが、皮膚扁平上皮がんは体の他の部位に転移する可能性があり、基底細胞がんは早期に発見されなければ、外観を損ねる可能性がある。本当は皮膚がんではないのに皮膚がんと判断すること(誤診:偽陽性との結果)は、不必要な手術やその他の検査をしてしまい、患者にストレスや心配をかけてしまうことになる。正しい診断をすることが重要である。ある皮膚がんを別の皮膚がんと間違えると、間違った治療が行われたり、効果的な治療が遅れたりする可能性がある。
レビューの目的は?
このコクランレビューの目的は、皮膚病変を持つ人々のうちどのような人が専門の皮膚科医(皮膚の病気に関係する医師)に紹介される必要があるか、また、その病変(皮膚の損傷や変化)が悪性ではないと安心できる人を見極めるのに、十分な遠隔皮膚科の精度があるかどうかを調べることであった。上記の疑問に答えるために22件の研究をレビューの対象とした。
レビューで何が研究されたか?
遠隔皮膚科とは、皮膚の病変または発疹の写真を専門家に送り、診断または管理に関するアドバイスを求めることである。これは、プライマリーケアの医師(開業医(GP))が、通常の紹介経路で患者を紹介することなく、専門の皮膚科医から意見を得ることができるようにするものである。遠隔皮膚科では、特殊なカメラ(皮膚鏡)で撮影した皮膚病変の写真や拡大画像を皮膚専門医に送って見てもらったり、開業医と皮膚専門医がテレビ会議を利用して皮膚病変についてすぐに話し合ったりすることもある。
レビューの主な結果は?
レビューには22件の研究が含まれており、病変4057件、悪性症例879件について遠隔皮膚科診断と最終病変診断(診断精度)を比較した16件の研究と、病変1449件、「陽性」症例270件について遠隔皮膚科診断の判定と患者と対面した場合の判定(紹介した時の精度)を比較した5件の研究が含まれた。
これらの研究は、皮膚がんの疑いのある病変を持つ人の分類やどのような遠隔皮膚科を用いるかなどの点で、それぞれ大きく異なっていた。遠隔皮膚科の精度については、信頼性の高い単一の推定ができなかった。病変を皮膚がんと正しく診断することに関して、皮膚の悪性病変の7%未満が遠隔皮膚科で見逃されるというデータが示唆された。研究結果はばらつきが大きすぎて、遠隔皮膚科診察後に専門皮膚科の不必要な予約に何人の人が紹介されるかを明らかにすることができなかった。しかしながら、遠隔皮膚科サービスへのアクセスがなければ、これらの研究に含まれるほとんどの病変は皮膚科医に紹介される可能性が高い。
レビューの研究結果はどれくらい信頼できるか?
対象となった研究では、最終的な皮膚がんの診断は病変部生検(病変部の小さなサンプルを採取して顕微鏡で検査できるようにすること)で行われ、皮膚がんがないことは生検で確認されるか、あるいは皮膚病変部が黒色腫でないことを確認するために時間をかけて追跡調査が行われていた。これは、人が本当に皮膚がんになったかどうかを判断するための確実な方法だったと思われる。いくつかの研究では、皮膚がんではないという診断は生検ではなく皮膚科専門医によって行われた。これは、本当に皮膚がんになったかどうかを判断するための信頼できる方法ではない可能性がある*。各研究がどのように行われたかに関する内容の報告が不十分であるため、信頼性の評価が困難であった。プライマリーケアではなく専門クリニックの患者を選択することと、遠隔皮膚科のさまざまな方法が共通の問題となっていた。
レビューの結果は誰に適用できるか?
ヨーロッパ(64%)、北アメリカ(18%)、南アメリカ(9%)もしくはオセアニア(9%)で研究は行われていた。調査対象者の平均年齢は52歳であったが、いくつかの研究では16歳未満の少なくとも何人かが含まれていた。皮膚がん患者の割合は2%から88%で、平均30%であり、英国のプライマリケア診療で観察されるよりもはるかに高い。
レビューは何を示唆するか?
遠隔皮膚科は、皮膚科医が診察する必要のある皮膚病変をプライマリケアの医師が判断するのに役立つ優れた方法である可能性がある。我々のレビューでは、病変部の写真に加えて拡大画像を使用することで精度が向上することが示唆されている。遠隔皮膚科サービスを提供する最良の方法を確立するには、さらなる研究が必要である。
本レビューの更新状況
著者らは、2016年8月までに公開された研究を検索して使用した。
*このような研究では、生検、経過観察または専門医による診断が(最終診断を確定する手段となる)基準であった。
《実施組織》 阪野正大 翻訳、山本依志子 監訳[2020.05.15]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD013193》