レビューの論点
コリンエステラーゼ阻害剤(認知症の人の記憶力や思考力を向上させる薬)を血管性認知症の人に使用した場合のエビデンスはあるか?
背景
血管性認知症(または血管性認知障害)とは、血液の供給が途絶えたことによって記憶や思考に問題が生じた場合に使われる用語である。血管性認知症の薬物治療はほとんどない。
このレビューでは、コリンエステラーゼ阻害剤系統の3つの薬剤、ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミンを評価した。これらの薬は、アルツハイマー型認知症に広く使われているが、血管性認知症にも有効な場合がある。これらのコリンエステラーゼ阻害剤のこれまでのレビューでは、血管性認知症の人に対する決定的な結論を出すことができなかった。
本レビューの目的
私たちは、コリンエステラーゼ阻害剤が血管性認知症の人に効果があるかどうかを知りたいと思った。私たちは、記憶や思考、日常生活の機能に及ぼす影響に関心があった。私たちは、これらの薬剤に関連する有害性について知りたいと思った。
前回のレビューから時間が経過しているため、新しい研究を探してアップデートしたいと考えた。ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミンに関する過去の3つのレビューを1つのレビューにまとめた。
方法
血管性認知症の人に対するドネペジル、リバスチグミン、ガランタミンの効果を記載した研究を検索した。科学的研究のデータベースを検索し、医薬品メーカーや血管性認知症の専門家に問い合わせた。検索対象は2020年8月19日までの期間であった。
レビューに含めるためには、血管性認知症の人をコリンエステラーゼ阻害剤による治療とダミーの薬(プラセボ)による治療に無作為に振り分け、2つのグループを比較する必要があった。また、あるコリンエステラーゼ阻害剤と他のコリンエステラーゼ阻害剤を比較した研究も含まれる。それぞれの薬について、含まれている研究の結果を組み合わせて、どのくらい効果があるか、どのくらい副作用が出るかを推定した。また、研究がどの程度適切に行われたか、その結果の信憑性も評価した。
異なるコリンエステラーゼ阻害剤を相互に比較した研究は見当たらなかった。コリンエステラーゼ阻害剤の違いによる効果の違いを見るために、ネットワークメタアナリシスという手法を用いた。ネットワークメタアナリシスは、薬を直接比較した場合にどのような結果になるかを示すものである。
わかったこと
その結果、血管性認知症(または血管性認知機能障害)の患者4373人を対象とした8件の研究が見つかった。この研究では、ドネペジルを2種類の用量(1日5mgと10mg)で、相互に、そしてプラセボと比較した。リバスチグミンとガランタミンは、プラセボに対してのみ評価された。リバスチグミンは皮膚への貼付剤としても販売されているが、今回の研究では錠剤タイプのみを対象とした。8つの研究はすべて、被験者が薬やプラセボを飲み始めたときと、その6カ月後に評価を行った。効果を測るために異なるテストが行われた。すべての研究で、記憶力や思考力の検査、報告された副作用が含まれた。
ドネペジルやガランタミンを服用した人は、プラセボを服用した人に比べて、記憶力や思考力テストのスコアが向上したが、その効果はわずかであり、日常生活で明らかになるほどの大きさではないかもしれない。リバスチグミンについては、差があるというエビデンスはなかったが、エビデンスの確実性は低く、また、一部の参加者が服用した用量が効果を示すには低すぎた可能性もある。プラセボと比較して、ドネペジル10mgおよびガランタミンを服用している人には、吐き気や下痢などの副作用が多く見られたが、ドネペジル5mgでは副作用はなかったと思われる。リバスチグミンの副作用については、これらの研究から結論を出すことはできなかった。
異なるコリンエステラーゼを相互に比較した血管性認知症の臨床試験は行われていない。個々の研究から得られた情報をもとに、それぞれの薬剤を直接比較した場合の結果を間接的に評価した。その結果、ドネペジル10mgは記憶や思考に対する効果が最も大きいが、ドネペジル5mgやガランタミンよりも副作用が大きいことが示唆された。
各薬剤の研究数は少なかった。結果の確実性は、薬剤や結果によって異なり、確実性が高いものから非常に低いものまであった。これらの研究では、最大でもわずかな効果しか認められなかった。しかし、他に治療法がない場合には、認知症の人はこれらの薬剤の使用を検討することができるであろう。
《実施組織》 阪野正大、冨成麻帆 翻訳[2021.05.05]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD013306.pub2》