背景
治療(例:手術)やスクリーニング(例:健康上の問題があるかどうかを知るための検査)において、人々がより良く意思決定に関われるよう支援を行うニーズがある。人々が、その選択肢に関連する最良のエビデンスを知り、問題点を医療従事者と共有することができれば、質の高い意思決定ができる。
意思決定コーチング(対象者の自発的な意思決定を促すコミュニケーション手法)は、人々が健康上の意思決定を行うための準備を支援する。意思決定コーチングは、トレーニングを受けた、または意思決定コーチングの手順書を使用している医療従事者(看護師、医師、薬剤師、ソーシャルワーカー、ピア・ヘルスワーカーなどの健康支援者など)によって行われる。
本レビューは、意思決定コーチングが、人々が医療上の意思決定を行うための準備として役立つかどうかを検討した。
何をしたのか?
本レビューは、7カ国の意思決定支援者、医療従事者、教師、研究者からなるチームで実施した。
自分自身や家族のための治療やスクリーニングに関する医療上の意思決定を行うための準備として、意思決定コーチングを人々(大人と子ども)に検証した研究を検索した。
意思決定コーチングを受ける人が、無作為に介入グループに割り付けられた(例:コンピュータを使って誰がどのグループに入るかを決める)研究を本レビューの対象とした。対象者を無作為にグループに分けて行う研究は、意思決定コーチングのような介入の効果を検証する際に、グループ間の研究結果を比較し、信頼できる結果を得るための最良の方法である。
検索方法
研究を見つけるために、8つの電子データベースを検索した。意思決定コーチングについて、専門家や研究の著者に聴取を行った。2021年6月までに発表された研究を対象とした。
わかったこと
意思決定コーチングを単独で、または研究に基づいた質の高い患者情報(「エビデンスに基づく情報」と呼ばれる)と組み合わせて使用した研究が28件見つかった。28件の研究では、合計5509人の成人が参加した。子どもを対象とした研究はなく、対象者(親)が誰かのために意思決定をするという研究が1件のみあった。これらの研究では、がん、更年期障害、精神疾患に関する治療法の決定、がん検診の決定、遺伝子検査など、さまざまな医療上の意思決定に関する意思決定コーチングについて検証していた。
いくつかの研究では、意思決定コーチングを、疾患に特化した情報や、患者意思決定支援ツール(小冊子、ビデオ、オンラインツールなど、意思決定を明確にし、選択肢やその長所・短所を示し、彼らにとって大事なことを明確するためのツール)などのエビデンスに基づく情報と一緒に、あるいはそれらと比較して検討していた。
エビデンスは何を示しているのか?
エビデンスに基づく情報提供のみの場合と比較して、意思決定コーチングを受けた人は、
- 知識における変化はほとんど、または全くないかもしれない(406人の患者、3件の研究)。
- 不安感における変化はほとんど、または全くないかもしれない(242人の患者、1件の試験)。
通常のケアと比較して、意思決定コーチングに加えてエビデンスに基づく情報提供を受けた人は、
- 知識の向上につながった可能性がある(1073人の患者、5件の試験)
結果の確実性
意思決定コーチングとエビデンスに基づく情報提供が、通常のケアと比べて、人々の知識を向上させるという結果の確実性は低い。意思決定コーチングは、エビデンスに基づく情報提供と比較して、知識や不安感に対する効果がほとんど、または全くないかもしれないという結果の確実性は低い。その他の結果については、エビデンスの確実性が非常に低く、対象となった研究では報告されていない重要な結果があったため、信頼性はより低い。多くの研究で参加者の人数が少なかった。このことは、本レビューの結果が今後のより多くの研究によって変わる可能性があることを意味している。
これが意味するもの
意思決定コーチングは、エビデンスに基づいた情報と一緒に使用することで、人々の知識を向上させ、医療上の意思決定を助けることができるだろう。本レビューでは、意思決定コーチングの使用による有害事象の報告は見当たらなかった。
《実施組織》堺琴美、瀬戸屋希 翻訳 [2021.11.21] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD013385.pub2》