高齢者の大腿骨近位部(股関節)外側骨折の治療には、どのようなものがあるのか?

要点

- このタイプの股関節の骨折には、「最善な治療法」はない。

- コンジロセファリックネイル(condylocephalic nails:膝から股関節に向かって上向きに釘を刺す方法)や静的固定アングルプレート(ピンやネジで骨折した骨にプレートを取り付ける方法)による治療後に、骨折した股関節の再手術が必要になった人が多かった。

- ショートセファロメデュラリーネイル(short cephalomedullary nail:股関節から膝に向かって下向きに釘を刺す方法)と動的固定アングルプレート(骨折した骨にプレートを取り付けるピンやネジがスリーブの中でスライドできる方法)に違いがない可能性がある。

- しかし、どの治療法も術後のQOL(生活の質)を向上させるのに優れているかどうかを知るには、研究数が少なすぎた。

高齢者における大腿骨近位部(股関節)の骨折

大腿骨近位部骨折は、足の骨の付け根が折れることである。大腿骨近位部骨折には2つのタイプがあり、今回のレビューでは、股関節のすぐ外側で骨折(大腿骨転子部骨折)した人を対象とした。大腿骨近位部骨折のもう一つのタイプは、骨頭(ボール)と骨盤の窪み(ソケット)の関節のすぐ下の骨折(大腿骨頚部骨折)である。この骨折については、別のレビューで紹介した。どちらの骨折も、骨粗しょう症で骨がもろくなっている高齢者に多くみられる。

どのような治療法があるのか?

- 金属のインプラントを使って、骨の折れた部分を固定する。大腿骨の内側に釘を挿入する。これらの長短の釘は、股関節から膝に向かって下向きに挿入されることもある(セファロメデュラリーネイル:cephalomedullary nails)。膝から股関節に向かって上向きに刺す釘もある(コンジロセファリックネイル:condylocephalic nail)。また、骨折した骨の外縁にネジやピンで固定する「固定アングルプレート」を使用する場合もある。多くの場合、これらのプレートのネジはスリーブの中でスライドし、動的固定アングルプレートと呼ばれる。これがない場合は、静的固定アングルプレートである。

- 骨折した股関節を人工股関節に置き換える。これは、関節の骨頭(ボール)部分のみを置換する半関節形成術(HA)と、骨盤の窪み(ソケット)を含む股関節のすべてを置換する全人工股関節置換術(THA)がある。

- 外付け固定を使用する。骨折の周囲の骨にピンやスクリューを打ち込み、この釘を金属のフレームで固定する。フレームは体の外側、折れた股関節のあたりに収まっている。

- 手術は行わず、通常、ベッドで安静にしながら、重りを使って足を牽引する治療法。

本レビューで実施したことは何か

これらの治療法の1つ以上を比較した研究を検索した。そして、これらの異なる治療法の利点と害を検証した。ある治療法が他の治療法よりも優れているかどうかを調べるために、研究結果を組み合わせて「ネットワーク」(「ネットワークメタ分析」と呼ばれる1つの分析で利用可能なすべての治療法を比較するときに使われる)を作った。

レビューの結果

このタイプの股関節骨折をした26,073人を対象とした184件の研究を特定した。年齢は60歳から93歳で、女性が69%を占めていたが、この種の骨折では一般的なことである。これらの研究のうち73件を「ネットワーク」に含めた。

それぞれの治療法での死亡数はほとんど、または全く差がないことがわかった。手術後12ヶ月以内の死亡の減少については、治療法のどれかが他の治療法よりも優れているかどうかは不明であった。

また、ほとんどの治療法において、骨折した股関節の再手術が必要かどうかも、ほとんど差がないことがわかった。しかし、コンジロセファリックネイル(condylocephalic nail)と静的固定アングルプレートでは、動的固定アングルプレートで治療した人に比べて、再手術が必要な人が多かった。これらの治療法は、再手術が必要になる可能性を高めるようであった。

治療後に健康関連のQOLが向上したかどうかを報告した研究は非常に少ない。

レビューの結果への確信はあるのか?

この結果にあまり確信を持っていない。理由は以下に記載する。

- ほとんどの研究は十分に報告されていない。その結果、研究手法により結果に誤差が生じる可能性がある。

- いくつかの研究結果には、説明のつかない異質性があった。

- いくつかの研究では、骨折の種類に違いがあった。

- ほとんどの治療法には、有益性(例:死亡数の減少)だけでなく、有害性(例:死亡数の増加)の可能性も含まれていた。そのため、結果は非常に不確かなものであった。

これらの治療法の真の効果は、このレビューでの結果とは大きく異なる可能性がある。

本レビューの更新状況

エビデンスは2020年7月までのものである。

訳注: 

《実施組織》堺琴美 冨成麻帆 翻訳[2022.05.23]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD013405.pub2》

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