このレビューの目的は何か?
うつ病では、再燃や再発(症状が改善したのに再び調子が悪くなること)がよく見られ、患者の障害の増加やQOL(生活の質)の低下につながっている。再燃とは、初期のうつ病エピソードがある程度改善した後に再び症状が現れることであり、再発とは、一度回復した後に新たなうつ病エピソードが発症することである。再燃や再発などの転帰は、患者が元気な時期に、その時に得られる情報を使って予測できることがある。個々の人のリスクを評価するには、数学的な計算が用いられ、この計算は、「予後予測モデル」または「予測ツール」と呼ばれている。英国の国民保健サービス(NHS)をはじめとするほとんどの医療サービスでは、医師やセラピストなどのリソース(資源)を、最も恩恵を受ける人々のために、可能な限り最善の方法で活用する必要がある。正確な予測ツールがあれば、その情報をもとに、最も「ハイリスク」な患者を特定し、再燃や再発を防ぐための追加支援を提供することができる。
このレビューの目的は、成人におけるうつ病の再燃・再発の予測ツールを開発しようとした研究を特定することである。特に、患者が元気な時期に予測を試みた研究に焦点を当てた。また、患者が元気な状態を維持できるかどうかを予測するツールもレビューに含めた。同じ予測ツールについて検証した研究が複数ある場合は、それらを組み合わせて、そのツールの効果をより正確に把握できるよう計画した。
要点
10個の再燃または再発の予測ツール(11件以上の研究)を確認した。しかしこれらは、再燃・再発を予測できることが証明されなかったか、研究の実施方法に問題があったため、どの予測ツールも実世界で使用できる段階ではなかった。うつ病の再燃・再発の予測を改善するためには、さらなる研究が必要である。
本レビューで検討された内容
関連する11件の研究の結果を集めて分析した。研究者が再燃・再発をどのように定義したか(例えば、うつ症状の診断に臨床面接を用いたか、自己報告式の質問紙を用いたか)、予測を行うためにどのような情報を収集したか、ツールを開発するために研究者がどんな手法を用いたか、ツールはどの程度再燃・再発を予測できたか、などについて検討した。また、ツールが別の参加者グループで検証されたかどうかも確認した。これは、モデルが現実世界の患者において正確に予測できるかどうかを確認するために不可欠である。
最後に、各研究者のアプローチを考慮した上で、結果にどれだけ信頼性を持てるか(これを「バイアスのリスク」と呼ぶ)、また、研究がこのレビューにどれだけ関連しているか(これを「適用可能性」と呼ぶ)を判断するために、研究を評価した。
レビューの主な結果
11件の研究が見つかった。そのうち10件は異なるモデルを開発しており、1件は先行研究で開発されたモデルの1つを検証していた。特定のツールの結果を組み合わせることはできなかった。
11件の研究のうち10件は、バイアスのリスクが高いと評価された。つまり、研究の進め方にいくつかの問題があったため、示された結果に確信を持てないということである。最も多かった問題は、研究の参加者の数が少なかったことである。その他の共通の問題点としては、研究者が使用した統計学的アプローチが挙げられる。
1つの研究は全体的にバイアスのリスクが低かったため、より確信を持って結果を信頼することができる。しかし、このツールでは、再燃・再発を正確に予測することはできなかった。
臨床現場で活用できるような研究は見当たらなかった。うつ病の再燃・再発を予測するツールを開発するためには、さらなる研究が必要である。
本レビューの更新状況
このレビューのための文献検索は、2020年5月に完了した。
《実施組織》 阪野正大、瀬戸屋希 翻訳[2021.5.11]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD013491.pub2》