クロロキンやヒドロキシクロロキンは、COVID-19患者の治療や、ウイルスに曝露された人の感染予防に有用か?

このレビューの目的は何か?

COVID-19は、SARS-CoV-2と呼ばれる新型コロナウイルスによって引き起こされる呼吸器感染症である。COVID-19が重症化すると、人工呼吸器による管理などを含めた入院による集中治療やサポートが必要になる場合がある。

COVID-19では、マラリア治療に使われるクロロキンや、関節リウマチや全身性エリテマトーデスなどのリウマチ性疾患に使われるヒドロキシクロロキンなど、他の疾患に使われる薬剤も試された。このレビューでは、これらの薬剤が、COVID-19患者の治療、医療従事者など感染リスクのある人やウイルスに曝露された人の発症予防に効果があるかどうかのエビデンスを調べた。

要点

ヒドロキシクロロキンはCOVID-19による死亡数を減少させず、おそらく人工呼吸器管理を必要とする人の数も減少させない。

ヒドロキシクロロキンは、プラセボ治療よりも多くの望ましくない効果の原因となったが、重篤で有害な望ましくない効果の数を増やすことはなかったようだ。

COVID-19の治療に対する、ヒドロキシクロロキンの新たな研究を開始すべきではないと考える。

レビューでは何を調べたか?

COVID-19患者、ウイルスに曝露されるリスクのある人、ウイルスに曝露した人へのクロロキンとヒドロキシクロロキンの投与について調べた研究を検索した。

その結果、14件の関連研究が見つかった。成人8569人を対象に、COVID-19の治療にクロロキンまたはヒドロキシクロロキンを使用した12件の研究、ウイルスに曝露したが感染の症状がない成人3346人を対象に、COVID-19の発症を予防するためにヒドロキシクロロキンを使用した2件の研究があった。これらの薬が、ウイルスに曝露するリスクのある人のCOVID-19発症を予防するための終了した研究は見つからなかったが、進行中の研究がある。

これらの研究は中国、ブラジル、エジプト、イラン、台湾、北米、欧州で実施され、1件は全世界で実施された。一部の研究では、ヒドロキシクロロキンを製造する製薬会社が一部出資をしている。

レビューの主な結果

COVID-19の治療

通常の治療やプラセボと比較して、ヒドロキシクロロキンは

- 死亡数に影響しなかった(原因は問わない死亡、8208人、9件の研究)。

- おそらく人工呼吸を必要とする人の数には影響しなかった(3件の研究、4521人)。

- 14日後にウイルスに対して陽性反応が出る人の数には影響しないかもしれない(3件の研究、213人)。

ヒドロキシクロロキンが、28日後に症状が改善した人の数に影響を与えたかどうかは不明である。

他の抗ウイルス治療薬(ロピナビル+リトナビル)と比較して、クロロキンは症状が改善するまでの時間にほとんど、あるいは全く差がなかった(1件の研究、22人)。

444人を対象とした研究では、ヒドロキシクロロキンとアジスロマイシン(抗生物質)を併用した場合、下記の点において通常の治療との違いはなかった。

- 何人の人が死亡したか。

- 何人が人工呼吸管理を必要としたか、または

- 入院期間。

フェブキソスタット(痛風の治療薬)と比較して、ヒドロキシクロロキンは、入院した人数や肺のCT画像所見の変化に違いはなかった。死亡例はなかった(1件の研究、60名)。

COVID-19に曝露された人の発症予防

ヒドロキシクロロキンが、プラセボ治療を受けた人と比較して、COVID-19を発症した人の数やCOVID-19で入院した人の数に影響を与えたかどうかは不明である(1件の研究、821人)。

通常の治療と比較して、ヒドロキシクロロキンは、COVID-19に曝露された人が発症するリスク、すなわちウイルスに対する抗体に違いはなかった(1件の研究、2525人)。

望ましくない効果

ヒドロキシクロロキンをCOVID-19の治療に使用した場合、通常の治療またはプラセボと比較して、

- 軽度の望ましくない効果のリスクをおそらく増加させる(6件の研究、1394人)。

- 重篤な有害作用のリスクを増加させないかもしれない(6件の研究、1004人)。

アジスロマイシンと併用した場合、ヒドロキシクロロキンはあらゆる望ましくない効果のリスクを増加させたが、重篤な望ましくない効果のリスクには差がなかった(1件の研究;444人)。

ロピナビル+リトナビルと比較して、クロロキンは望ましくない効果のリスクにほとんど、あるいは全く差がなかった(1件の研究;22人)。

COVID-19の予防に使用した場合、ヒドロキシクロロキンは、おそらくプラセボよりも多くの望ましくない効果をもたらすが、重篤で有害な望ましくない効果のリスクを増加させないかもしれない(1件の研究;700人)。

このレビューの結果はどの程度信頼できるか?

何人が亡くなったかという結果は信頼性が高く、何人が人工呼吸管理を必要としたかという結果には中程度の信頼性がある。ヒドロキシクロロキン治療の望ましくない効果については中程度の信頼性があるが、重篤な望ましくない効果についての結果は信頼性が非常に低い。これらの結果は今後のエビデンスとともに変化する可能性がある。

このレビューはどれくらい最新のものか?

2020年9月15日までに発表されたエビデンスを対象とした。

訳注: 

《実施組織》 堺琴美、阪野正大 翻訳[2021.09.14]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD013587.pub2》

Tools
Information