COVID-19パンデミックを抑制するための学校での対策の予期せぬ結果

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なぜこの論点が重要なのか?

COVID-19の原因となる感染力の強い呼吸器系ウイルスSARS-CoV-2の蔓延を防止・抑制するため、世界各国では多くの公衆衛生および社会的な対策がとられている。学校や地域社会では、SARS-CoV-2の感染を最小限に抑えるため、さまざまな対策が実施されている。学校は、近接した人々の間で長時間の交流が行われるため、ウイルスの感染率が高い環境となる可能性がある。前回のレビューでは、SARS-CoV-2感染に関する学校での対策の有効性に関する研究を探し出し、検討した。政策立案者や保護者が十分な情報を得た上で決断できるように、健康や社会に及ぼす予期せぬ影響に目を向けることも同様に重要である。公衆衛生対策の予期せぬ影響は、有益な場合もあれば有害な場合もある(あるいはその両方が混在する場合もある)。公衆衛生対策は益と害を混在させる可能性がある。本レビューでは、学校におけるSARS-CoV-2の感染拡大を防止・抑制するための対策が予期せぬ影響をもたらしたかどうかを検証することを計画した。そのため、本レビューは、そうした対策の有効性に関する前回のレビューを補完するものであると考えられる。

本レビューで行ったことは何か?

最初に、学校(小学校、中学校、またはその両方)で実施されているウイルス感染防止策を評価する研究を9種のデータベースで検索した。あらゆる種類の研究と幅広い結果について検討した。

次に、同定された研究を、検討した対策の種類によってグループ分けした。そして、どのようなアプローチで研究が行われ、どこで実施され、どのような予期せぬ影響を評価したかを記述した。

レビューの結果

その結果、対象基準に合致する18件の研究が見つかった。5件の研究は「現実の」データを使用し(観察研究)、5件の研究はコンピュータで生成した一連の仮定に基づくデータを使用し(モデリング研究)、3件の研究は実験室ベースの実験研究であり、4件の研究は人々へのインタビューに基づいた質的研究であった。1件の研究では、数値的な情報と非数値的な情報(質的な情報)を組み合わせた混合法を使用した。

これらの研究では、以下の4種類の対策が検討された。

- 接触回数を削減する対策(4件の研究): 校舎内の生徒数を減らす(つまり、1クラスあたりの生徒数を減らす)、または生徒の接触回数を減らす(例:グループを決めたり、登下校時間をずらすなど)方針。

- 接触をより安全にするための対策(14件の研究): 学校や教室での人々の接触をより安全にする(例:マスクの義務付けや距離を置く規制)、環境や活動を修正する(例:清掃や換気の強化)ための実践。

- SARS-CoV-2感染を検出するための監視および対応策(6件の研究): 検査および/またはスクリーニング戦略(例:検温、学生および職員のスクリーニング検査、症状のある学生および職員の検査)、および自己隔離または隔離措置。

- 多面的な対策(1件の研究): 上記の対策のうち少なくとも2つを組み合わせて用いる介入。

以下の予期せぬ影響について検討した。

- 教育への影響(11件の研究)、例:学校の成績の変化、次の学年への進級、卒業者数の変化など。

- 心理社会的 影響(7件の研究)、例:精神的健康、学校へ行くことへの不安など。

- COVID-19以外も含む身体的健康および健康行動への影響(3件の研究) 例:手洗いの増加による手湿疹など。

- 環境への影響(3件の研究) 例:教室の空気環境の変化。

- 社会経済的影響(2件の研究) 例:家族への経済的負担。

結論はどうだったのか?

SARS-CoV-2の感染拡大を防ぐために考案された学校における対策が、予期せぬさまざまな影響をもたらしたことを特定した。しかし、根拠となるエビデンスは弱く、さらなる研究によって大幅に補う必要がある。このスコーピングレビューは、それらの影響の程度を測定するための最初のステップとなるものである。さらに情報を収集し、より詳細な分析を可能にするために、さらなる研究が必要である。心理社会的影響(例:メンタルヘルス問題、うつ病、孤独感)、公平・平等性への影響(例:低所得世帯の子どもへの不利益、両親の性別による仕事の不公平配分)には、より一層の注目が必要である。今後の研究では、グループの固定、交互の登校、登下校・休憩時間のずらしなどの介入策や、検査・隔離策を検討することを提言する。

本レビューの更新状況

エビデンスは2021年3月までのものである。

訳注: 

《実施組織》堺琴美、杉山伸子 翻訳[2022.06.25]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD015397》