レビューの論点
コクランの著者らは、排卵していない多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の女性に排卵を起こさせる腹腔鏡下卵巣開孔術(LOD)と呼ばれる外科的処置の効果について、内科的治療と比較したエビデンスをレビューした。異なるLOD技術による効果もレビューした。
背景
PCOSの女性は排卵に問題があるため、妊娠しにくい場合がある。以前から、クロミフェンクエン酸塩(CC)がPCOSの女性の第一選択の治療法として使用されてきた。新しいガイドラインによると、レトロゾールによる排卵誘発を第一選択治療とすべきであるが、レトロゾールの使用は正式には認められていない。その結果、クロミフェンクエン酸塩は現在でも一般的に使用されている。CCで治療を受けている女性の約20%は排卵に至らない。このような場合、CC抵抗性PCOSと呼ぶ。CC抵抗性PCOSの女性には、ゴナドトロピン、メトホルミン、アロマターゼ阻害剤(レトロゾール)など、他の排卵誘発剤を用いるが、これらの薬は必ずしも効果があるとは限らず、過剰な反応による多胎妊娠や周期のキャンセルなどの有害事象を引き起こす可能性がある。もう一つの治療の選択肢として、腹腔鏡下卵巣開孔術(LOD)と呼ばれる手術療法がある。この方法は、小さな切り口から腹腔鏡(カメラ)をお腹の中に入れ、卵巣に熱やレーザーを当てるものである。切り口は、通常、おへそのすぐ下に開ける。この治療によって、卵巣でのホルモン分泌やホルモンに対する反応が改善され、排卵の可能性が高まると考えられている。しかし、手術には麻酔による合併症や感染症、癒着などのリスクがある。LODは薬物療法に対する外科的な代替医療であり、このレビューではその利点とリスクを明らかにすることを目的とした。
研究の特徴
今回の更新されたレビューでは、LODと薬物による排卵誘発を比較したり、LODの異なる技術を比較したりした38の比較対照試験が含まれている。このレビューのエビデンスは、2019年10月現在のものである。
主要な結果
エビデンスの質が低い主要な解析結果によると、無排卵性PCOSおよびCC抵抗性の女性において、LODは排卵誘発剤併用の有無にかかわらず、薬物による排卵誘発のみの場合と比較して出生率がわずかに低くなる可能性があることが示された。より質の高いRCTのみを含む解析では、治療法間の差は不確実であると示唆された。薬剤のみによる排卵誘発での出生率が44%だとすると、LOD後の出生率は32~52%になるというエビデンスがある。中程度のエビデンスによると、LODはおそらく多胎妊娠の数を減らすと考えられる。薬剤のみによる排卵誘発での多胎率が5.0%だとすると、LOD後の多胎率は0.9~3.4%になるというエビデンスがある。
臨床妊娠率については、治療法による差はほとんどないか全くないかもしれない。排卵誘発剤のみの治療と比較した場合のLODの流産への影響は不確かである。卵巣過剰刺激症候群(OHSS)は、LOD後に起こる頻度は低いかもしれない。
エビデンスの質が十分でないため、片側の卵巣に対するLODと両側卵巣に対するLODの比較における、出生率、臨床妊娠率および流産に関する結論を正当化できなかった。
他の介入に関する主要アウトカムの結果は、結論を出すには不十分であった。
エビデンスの質
エビデンスの質は低度~中程度だった。エビデンスの主な限界は、研究方法の報告が不十分であること、対象者の選択におけるバイアスの存在、結果のばらつきであった。
《実施組織》杉山伸子、増澤祐子翻訳 [2020.1.26]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクラン日本支部までご連絡ください。 なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review、Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD001122.pub5》