脳性麻痺の下肢痙縮に対するA型ボツリヌストキシン注射

背景

脳性麻痺(CP)は、発育中の脳への損傷が原因で生じた、非進行性で、生涯にわたる疾患である。CPの子どもは成長とともに、少なくとも一肢に、正常な運動を妨げるような、異常な筋活動とスティフネス/過活動(痙縮)を生じる。痙縮の治療法としては、理学療法、経口抗痙縮薬(筋を弛緩させて痙縮を軽減する薬の一種)、ギプス、スプリント、整形外科手術、A型ボツリヌストキシン(BoNT-A;筋に注射し、筋の過活動を抑えることで、痙縮を軽減すると考えられている有毒な生物学的物質)などがある。今回のレビューでは、BoNT-Aの効果について調査した。

レビューの論点

このレビューの目的は、CPの子どもの下肢痙縮に対する他の治療法と、BoNT-A注射を比較した、科学的研究を評価し、要約することであった。

研究の特性

1508人の参加者を対象とした、31件の研究が見つかった。下肢筋に対するBoNT-Aの使用を次の4つと比較した。(1)定型的なケアまたは理学療法(2)プラセボ(偽注射)(3) 持続的な膝下石膏ギプス(4)下肢装具

主な結果

BoNT-A注射を受けた子どもたちは、通常のケアプログラムや理学療法、またはプラセボと比較して、歩行パターン(歩行)、関節可動域、治療結果の満足度、筋痙攣が改善される傾向があった。機能の測定では、BoNT-A注射を受けた子どもでは、わずかな改善しか示さない傾向があった。BoNT-A注射とプラセボを比較すると、副作用の発生率はほぼ同じであった。BoNT-Aの注射と膝下石膏ギプスは、歩行や関節運動、痙縮の軽減にも、同様の効果をもたらした。さらに、BoNT-Aは、特定のタイプの下肢装具(Johnstone pressure splints)と比較して、関節可動域の点でより良い結果をもたらした。

エビデンスの質

エビデンスの質は、BoNT-Aと通常のケアや理学療法との比較では非常に低い、BoNT-Aとプラセボとの比較では中等度、BoNT-Aと石膏ギプスとの比較では中等度と低度、BoNT-Aとスプリントとの比較では非常に低いと考えた。

結論

プラセボや定型的なケアと比較して、BoNT-AがCP児の歩行、関節運動、治療成績の満足度、筋痙縮を改善するというエビデンスは、わずかである。BoNT-Aの副作用の発症率は、プラセボと同程度であった。BoNT-Aはいずれの分析においても石膏ギプスよりも優れていると言えなかったが、下肢装具よりも可動域と痙縮を改善する点で優れていた。

訳注: 

《実施組織》堀本佳誉、小林絵里子 翻訳[2020.08.06]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD001408》

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