レビューの論点
乳がんに罹患したことがない女性および片方の乳房に乳がんの既往がある女性において、リスク低減乳房切除術(RRM)があらゆる原因による死亡率を低減するかどうかに関するエビデンスを検討した。また、乳がん罹患率、乳がん死亡率、無病生存率、身体的罹患率、心理社会的転帰など、その他のエンドポイントに対するRRMの効果についても検討した。
背景
乳がんの遺伝的基礎について解明が進んだことや、著名人がRRMを受けたことが広く報道されたことにより、乳がんを予防する方法としてのリスク低減乳房切除術(RRM)への関心が高まっている。
研究の特徴
61件の研究で、RRMを受けた、乳がん発症の幅広いリスク因子を持つ15,077人の女性に関するデータが発表されていた。RRMには、乳がんを予防するために両方の乳房を外科的に切除する方法(両側リスク低減乳房切除術:BRRM)と、片方の乳房に乳がんが発生した女性がもう片方の乳房に発生する乳がんの発生率を低減するために病気のない方の乳房を切除する方法(対側リスク低減乳房切除術:CRRM)がある。エビデンスは2016年7月までのものである。
主要な結果
BRRMの研究では、乳がんの発生率または死亡者数、あるいはその両方を減少させることが報告されているが、多くの研究では方法論的な限界がある。BRRMの後、ほとんどの女性は自分の決断に満足しているが、美容的な結果、ボディイメージ、性的な感情に対する満足度は低いと報告している。RRMの合併症の一つとして、特にRRM後に乳房再建術を受ける女性では、予期せぬ追加手術が必要になることが挙げられた。しかし、ほとんどの女性は、ボディイメージや性的感情への満足度が低下したと同時に、乳がんになることや乳がんで死亡することへの不安も軽減した。
片方の乳房にがんがある女性の場合、もう片方の乳房を切除すること(CRRM)により、もう片方の乳房でのがんの発生率が低下する可能性があるが、元のがんの再発や転移のリスクが継続するため、生存率が向上するという十分なエビデンスはない。
公表されている観察研究では、BRRMが乳がんの罹患率と死亡率の両方を減少させるのに有効であることが示されているが、より厳密な前向き研究が必要である。BRRMは、乳がん遺伝子であるBRCA1およびBRCA2の変異を持つ人など、病気のリスクが高い人に限って検討すべきである。CRRMは対側乳がんの発生率を低下させることが示されたが、CRRMが生存率を向上させるという十分なエビデンスはなく、結果に影響を与える可能性のある複数の変数を調整した研究が推奨されている。健康で若い女性がCRRMを勧められたり、CRRMを選択したりするという選択バイアスにより、CRRMの全生存率が高くなっている可能性がある。
エビデンスの質
半数強の研究が選択バイアスのリスクが低いと判断された。つまり、グループ間の予後や治療反応性の系統的な違いを調整した研究であった。同様に、60%が検出バイアスのリスクが低いと判断された。つまり、アウトカムの測定・検出方法の系統的な違いを考慮した研究であった。選択バイアスと検出バイアスが高くなる主な原因は、すべての主要な交絡因子をコントロールしていなかったことである。例えば、介入群と対照群において、リスク因子や両側リスク低減卵管卵巣摘出術(BRRSO:予防的に卵管と卵巣を取り除く手術)を受けたかどうかを調整されていなかった。実行バイアス(リスク低減乳房切除術の検証)は、ほとんどの研究が手術報告に基づいていたため問題にはならなかったが、3件は自己申告に頼っており、8件は広範な時間枠から得られた複数のデータ源に基いていたために不明であった。また、約13%の研究において、減少バイアスが高リスクまたは不明瞭であった。報告された追跡期間の平均または中央値は、1~22年であった。
結論
BRRMあるいはCRRMの過剰治療を受けているかもしれない女性の数を考えると、手術を検討する前に、女性と臨床医が個々の女性の真のリスクを理解することは非常に重要である。さらに、RRMを検討する際には、BRRSOや化学的予防など、乳がんリスクを低減するための他の選択肢についても考慮する必要がある。
《実施組織》 小林絵里子、杉山伸子 翻訳[2021.10.18]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD002748.pub4》