レビューの論点
ヘリコバクター・ピロリ (H. pylori、ピロリ菌 )感染者の消化性潰瘍(胃または上部小腸の潰瘍)の治療に抗菌薬の使用は有用か?
背景
消化性潰瘍は、酸性の胃液が胃の粘膜(胃潰瘍)や上部小腸(十二指腸潰瘍)を傷つけることで起こり、痛みや消化不良、時には出血などの症状を起こす。特にヘリコバクター・ピロリに感染している場合(治療しないと感染が生涯にわたって持続する)など、潰瘍は治っても再発することがある。H.pyloriはほとんどの消化性潰瘍を引き起こす。消化性潰瘍患者の治療において、抗菌薬を併用しH.pyloriを根絶すること(H.pylori除菌療法)が、無治療や他の内科的治療に比べて有用であるかどうかは不明である。本レビューは、2006年に発表されたコクランレビューの最新版である。
研究の特性
本レビューでは55件の試験データを用いた。十二指腸潰瘍の治療において、H.pylori除菌療法と潰瘍治療薬を併用した場合と潰瘍治療薬のみを投与した場合を比較した研究は34件であり、H.pylori除菌療法を無治療と比較した研究は2件であった。胃潰瘍の治療において、H.pylori除菌療法と潰瘍治療薬を併用した場合と潰瘍治療薬のみを投与した場合を比較した研究は15件であった。消化性潰瘍(胃潰瘍または十二指腸潰瘍)の治療において、H.pylori除菌療法と潰瘍治療薬を併用した場合と潰瘍治療薬のみを投与した場合を比較した研究は3件であり、H.pylori除菌療法を無治療と比較した研究は1件であった。初回の十二指腸潰瘍が治癒した後の再発予防において、潰瘍治療薬とH.pylori除菌療法を比較した研究は4件であり、H.pylori除菌療法を無治療と比較した研究は27件であった。また、初回の胃潰瘍が治癒した後の再発予防において、H.pylori除菌療法と無治療を比較した研究は12件であり、初回の消化性潰瘍(胃潰瘍または十二指腸潰瘍)が治癒した後のの再発予防において、H.pylori除菌療法と無治療を比較した研究は1件のみであった。消化性潰瘍(胃潰瘍または十二指腸潰瘍)の症状緩和において、H.pylori除菌療法と潰瘍治療薬を併用した場合と対照療法を比較した研究は4件であった。胃潰瘍の治療におけるH.pylori除菌療法と無治療との比較、初回の胃潰瘍治癒後の再発予防のための維持療法としてのH.pylori除菌療法と潰瘍治療薬との比較、消化性潰瘍患者の症状緩和におけるH.pylori除菌療法と潰瘍治療薬の併用と無治療、または潰瘍治療薬単独投与と比較した研究はなかった。いくつかの試験では、複数の比較の情報を提供した。このエビデンスは2016年3月現在のものである。
主な結果
潰瘍治療薬単独投与や無治療に比べて、1~2週間のH.pylori除菌療法を追加することで、H.pylori陽性の十二指腸潰瘍患者の潰瘍治癒が早まる。H.pylori除菌療法は、無治療に比べて十二指腸潰瘍や胃潰瘍の再発防止(初回治療後の再発)にも効果がある。現在のところ、H. pylori 除菌療法が胃潰瘍患者にとって有効な治療法であることや、潰瘍治療薬と比較して十二指腸潰瘍の再発予防に有効であることを示すエビデンスはない。しかし、最後の2つの比較では含まれている試験数が少ないため、急性胃潰瘍の治療において無治療と比較して、または十二指腸潰瘍の再発予防において潰瘍治療薬と比較して、H. pylori除菌療法が明らかな利益あるいは危害を与える可能性は否定できない。
エビデンスの質
ほとんどの研究では研究デザインに誤りがあったため、エビデンスの質は低いか、非常に低かった。従って、結果には不確実な要素が多く含まれている。
《実施組織》 季律、阪野正大 翻訳[2020.09.11] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD003840.pub5》