背景
高血圧の人に対して、標準的な血圧目標よりもさらに低い血圧目標を採用するほうがよいかどうかを調べるために行われた臨床試験を残らず検索し、評価する目的でこのレビューを行った。
高血圧治療の第一の目的は重大な血管疾患(心臓病や脳卒中など)を防ぐことにある。一般の高血圧症の人に対する標準的な治療目標は、血圧を140/90㎜Hg未満に下げることとされてきた。臨床ガイドラインのなかには、血圧をさらに低い値まで下げれば心血管疾患の発症がさらに減るという仮説に基づき、厳格な血圧コントロールを推奨しているものもある。
研究の特性
エビデンスは2019年5月現在のものである。20歳から80歳までの動脈性高血圧症の成人計38,688人を対象とした11件のランダム化比較試験を採用した。血圧を標準値まで下げることを目標に治療を受ける人と、標準値よりさらに低い血圧を目標に治療を受ける人に参加者を分けて比較し、平均3.7年間追跡して、死亡率と有害事象に差があるかどうかを調べた。
主な結果
標準目標値よりも「さらに低い」血圧を目標にしたグループに認められた統計学的に有意な利点は、心臓発作の発生率がわずかに減ることと、うっ血性心疾患の発症率がわずかに減ることだけであった。その一方で、この低めの血圧を目標としたグループでは、その他の重篤な有害事象の件数が増加していた。確実性の高いエビデンスとして、標準的な血圧目標値と比べて、目標値をさらに低く設定しても、総死亡についても重篤な有害事象の総件数についても差がないことがわかった。
血圧が高い一般の人に対して、標準的な目標値(140/90㎜Hg以下)よりもさらに低い目標値(訳注:135/85㎜Hg以下)まで血圧を下げようとすることの利点は小さく、この利点が先に述べた悪影響を上回ることはない。血圧が高い特定の患者群に関して、低めの血圧目標を採用することによる利点なり悪影響なりがあるかどうかについて今後さらに研究が必要である。
《実施組織》中野雅資(A small circle of shrimps)、ギボンズ京子 翻訳[2021.01.24]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD004349.pub3》