小児における下痢の治療を目的とした経口亜鉛補給

低所得から中所得の国々では、毎年何百万という子どもたちが重度の下痢に苦しみ、多くが脱水によって死亡している。口から(経口補水液 (oral rehydration solution:ORS)を用いて)水分を補給すれば子どもたちの命を救うことができることは明らかとなっているが、子どもが下痢に苦しむ期間を短縮する効果はない。亜鉛補給は、下痢の期間を短縮させ、重症度を抑えるのに役立つ可能性がある。このため、小児の死亡率を低下させるうえでORSに対して付加的な利益が得られるかもしれない。

経口亜鉛とは何か、経口亜鉛による下痢の期間短縮と重症度軽減のしくみ

亜鉛は通常、硫酸亜鉛、酢酸亜鉛またはグルコン酸亜鉛として投与され、いずれも水溶性化合物である。世界保健機関(World Health Organization :WHO)と国連児童基金(United Nations Children's Fund :UNICEF)は、小児の下痢に対して1日あたり 10 mg から 20 mg の亜鉛を推奨している。急性の下痢に対する亜鉛の作用機序がいくつかあり、その一部は消化器系に特異的な機序である。たとえば、亜鉛は、粘膜バリアの整合性および腸管吸収上皮細胞の刷子縁の酵素活性を修復し、腸管内の病原菌に対抗する抗体および循環するリンパ球の産生を促し、アデノシン3',5'-環状一リン酸水和物媒介塩素分泌のカルシウムチャンネル遮断薬として作用して、イオンチャンネルに直接影響を与える。コクランの研究者らが2016年9月30日までに入手可能なエビデンスを検討した。

レビューのエビデンスから示唆されること

小児計10,841例を対象とした試験33件が今回のレビューの選択基準を満たしていた。

急性の下痢がみられた小児の間で、亜鉛による治療が小児の死亡数または入院数に効果があったかどうかはわからない(確実性が非常に低いエビデンス)生後6カ月以上の小児では、亜鉛を補給することによって、下痢の平均期間が約半日短縮される可能性があり(確実性が低いエビデンス)、下痢が7日目まで持続する小児の人数がほぼ確実に減少する(確実性が中程度のエビデンス)。栄養障害の徴候がある小児では、下痢の期間が約1日短縮される(確実性が高いエビデンス)ことから、効果がさらに高いと思われる。逆に、生後6カ月未満の小児では、入手可能なエビデンスによれば、亜鉛補給の下痢の平均期間に対する効果はなく( 確実性が 低いエビデンス)、 7日目もまだ下痢が続いている小児数にも効果はなかった(確実性が 低いエビデンス)。亜鉛の補給によって両年齢群で嘔吐のリスクが増加した(確実性が中程度のエビデンス)。それ以外の有害事象は報告されていない。

下痢が持続している小児では、亜鉛を補給することによって、下痢の平均期間が約16時間短縮することはほぼ確実である(中程度の確実性)が、嘔吐のリスクもおそらく増加する(確実性が中程度のエビデンス)。

亜鉛欠乏症または栄養障害の有病率が高い地域では、生後6カ月以上の小児に対する亜鉛の補給が有益であると考えられる。現在、生後6カ月未満の小児、栄養状態が良好な小児、および小児が亜鉛欠乏症となるリスクが低いと考えられる環境では、亜鉛の使用を裏付けるエビデンスはない。

訳注: 

《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2018.12.25] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、eJIM事務局までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。eJIMでは最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 【CD005436.pub5】

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