要点
・確実なエビデンスがないため、逆根管充塡に使用される材料の利点とリスクについては不明である。
・どの材料を使用するのが最適かを判断するには、エビデンスの強さが不十分である。
・エビデンスを強化するためには、さらなる研究が必要である。
歯内療法(歯の神経の治療)における逆根管充塡とは?
歯髄とも呼ばれる歯の内部の生きている部分(歯の神経)に、むし歯(う蝕)による損傷や細菌感染が発生することによって、持続的な腫れが起きることがある。この治療法として、歯冠上部に穴を開け、歯の内部の空間である根管系(歯の根の神経の通っている管)にアクセスする必要がある。その後、機械的な清掃と薬液による洗浄を組み合わせて、感染した組織と細菌を除去する。
最後に、生体に無害な材料を詰めて(根管充塡)、根管内を封鎖する。この治療法は(非外科的)歯内療法として知られる。成功率は一般的に良好であるが、失敗する場合もある。これは、根管系が複雑であることにより、全ての細菌を完全に排除することが困難であるためと考えられている。残存した根管内の細菌が拡散し、歯の根の周囲の感染が持続する可能性がある。
非外科的歯内療法が失敗した場合、歯を保存する治療法として、外科的歯内療法と呼ばれる方法が良い選択肢となる。外科的歯内療法では、歯肉を切開し、骨に穴を開けることで、歯の根の先端部に直接アクセスすることができる。感染を起こしている根の先端を切削により除去し、十分に逆根管窩洞形成(機械的な切削により清掃を行うとともに、充塡材料を詰めるための空間を形成するための手技)を行った後、根の中を封鎖(アピカルシール)するために充塡を行う(これを逆根管充塡と呼ぶ)。この封鎖処置(逆根管充塡)が、外科的歯内療法を成功させるための最も重要な要素とされている。
逆根管充塡に使用される材料には何があるか?
多くの材料が開発されており、例えば、MTA、IRM、スーパーEBA、コンポジットレジン、グラスアイオノマーセメント、アマルガム、RRMなどがある。しかし、どの材料が最も優れているかについては、意見が分かれている。
何を調べようとしたのか?
逆根管充塡に適した材料は何か、また、それらの材料に有害な作用があるかどうかを明らかにすることを試みた。
何を行ったのか?
逆根管充塡に使用されるさまざまな材料について比較を行った研究を検索した。見つかった研究結果を比較、要約し、研究方法や研究の規模などの要因に基づいて、エビデンスの信頼性について評価を行った。
どのような研究が見つかったか?
17歳以上の合計1399人(1471歯)について、異なる種類の材料で逆根管充塡を行い、術後最低12か月間の経過を追った8件の研究が見つかった。
このエビデンスについて:
・逆根管充塡にどの材料を使用するのが最良かを決定するためには、十分なものではなかった。
・どの材料についても、有害な影響を調査した研究はなかった。
このエビデンスの限界は?
このエビデンスの主な限界は以下の通りである:
・研究が非常に小規模であったこと。
・結果に誤差を生じさせるような方法で研究が実施されていたこと。
・結果について確信できるほどの十分な研究がなかったこと。
これらの限界により、このエビデンスについての信頼性は低いと考えられた。
このエビデンスはいつのものか?
2021年4月時点でのエビデンスである。
《実施組織》小泉悠、阪野正大 翻訳[2022.09.05]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD005517.pub3》