レビューの論点
本コクランレビューの目的は、ランダム化比較試験(Randomised Controlled Trials :RCT)のデータを分析することにより、様々な年齢や重症度の患者の湿疹を治療する上で、プロバイオティクス(細菌、真菌、酵母)がプラセボ(外見は同じであるが効果のない治療薬)、無治療、プロバイオティクスを含まない他の治療薬と比較して有効であるかどうかを検証することである。検証内容は、プロバイオティクスを用いた治療によって、積極的治療の終了時および積極的治療終了後のフォローアップ期間において、患者の症状、生活の質、湿疹の重症度が改善するかどうかであった。
背景
湿疹は、かゆみを伴う発赤を特徴とする皮膚状態であり、人の一生のあいだで5〜20%に影響を及ぼす。 湿疹患者では、湿疹がない人とは異なる腸内細菌が認められ、また時には腸内に炎症が認められる。腸内細菌叢の構成を変えること、または腸内の炎症を減少させることにより、湿疹の症状を治療することが可能となることが示唆されている。 これを達成できる可能性があるのが、プロバイオティクスである。プロバイオティクスは、低温殺菌牛乳およびヨーグルトに見られるLactobacillusなどの微生物の生菌である。
本レビューは、2008年に発表された以前のコクランレビューの更新版であり、初回のレビューの発表以降により多くの試験が実施されたこと、プロバイオティクスの使用が増加したこと、湿疹の新たな治療が必要とされていることから、この更新は重要である。
試験の特性
2017年1月までの検索で同定した参加者2599例のランダム化比較試験(randomised controlled clinical trials :RCT)39件を組み入れた。
これらの試験の参加者について年齢および性別は区別しなかったが、大半の試験では、医療従事者より湿疹との診断を受けた小児を評価した。参加者の湿疹は軽度から重度であり、RCTでは、様々な用量および濃度における微生物の生菌(プロバイオティクス)の経口投与と、無治療、プラセボ、プロバイオティクス以外のもう一つの治療薬とを比較した。
対象としたプロバイオティクスは、LactobacillusおよびBifidobacteria種の微生物であり、単独またはその他のプロバイオティクスとの併用で、4週間から6カ月間投与した。湿疹予防を目的とした試験は検証しなかった。ほとんどの試験は欧州、いくつかの試験はアジア、オーストラリア、ニュージーランドにて、医療機関で行われた。ほとんどの試験は単一施設で実施された。レビュアーは、試験を選択する際に言語の制限は設けなかった。10試験は、プロバイオティクスを供給する企業による資金提供を受けていたが、4試験は資金提供元を明記していなかった。
主要な結果
この要約における結果は、下記に基づくこととする。プロバイオティクス対プロバイオティクスなしの比較。6週間から3カ月間の治療。より長期(16週間)に治療を受けた参加者については、研究者が評価する湿疹の重症度のアウトカムを除くこと。治療期間に評価した有害事象とは別に、治療期間の最後に評価したアウトカム。特記のない限り、アウトカムは、参加者または保護者が評価した。対象とした試験では、様々な用量および濃度の種々のプロバイオティクスを評価した。スコアに関しては、スコアが高くなるほど症状はより重症になった。
現在入手可能なプロバイオティクスは、痒みや不眠などの湿疹の症状を軽減する上で、ほとんどまたは全く効果がないことが判明した(科学的根拠(エビデンス)の質は中程度)。
しかし、これらのプロバイオティクスは、併用した場合、患者や医療従事者が評価した湿疹の重症度をわずかに軽減する可能性が認めらたが(エビデンスの質は低い)、そのような変化が患者にとって意味のあるものであるかどうかは不明である。
患者の生活の質について、プロバイオティクスに効果があることを示すエビデンスは認められなかった(エビデンスの質は低い)。
有害事象が増加するというエビデンスは認められず、対象とした試験で報告された治療関連の有害事象は、下痢、便秘、嘔吐および疝痛を伴う腹部および腸内の異常であった(エビデンスの質は低い)。
分析から、湿疹症状の効果を評価するプロバイオティクスの試験をさらに実施することに価値はない可能性が示唆される。なぜならば、プロバイオティクスによって積極的治療の終了時にアウトカムが変化する可能性は低いからである。
エビデンスの質
湿疹症状に関して参加者が中程度の評価をした1件を除き、主な所見の根拠となるエビデンスの質は低い。この理由には試験間のばらつきが挙げられる。試験の中には、説明がないものや、利用可能なデータが十分にはないものがあった。
《実施組織》厚生労働省「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2019.09.30]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、eJIM事務局までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。eJIMでは最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD006135.pub3》