レビューの疑問
早産児において、母乳の栄養価を高めるために使用されるタンパク質の量によって、成長や脳のパフォーマンスや機能の向上を意味する神経発達(例:知能、読解力、社会性、記憶力、注意力、集中力など)に関する評価結果に差が生じるのか?
背景
早産児の栄養補給には母乳が最適である。しかし、早産児は大量のミルクを摂取できないことが多いため、母乳だけでは推奨量のタンパク質を摂取できないことがある。早産児に与える母乳には、母乳強化剤と呼ばれる製品を用いて母乳の栄養価を高めることが一般的になってきている。母乳強化剤に使用されるタンパク質の量(濃度)は徐々に増加してきているが、母乳強化剤の最適なタンパク質濃度がどの程度なのかについては議論がある。
研究の特徴
このレビューには、861人の乳児を対象とした9件の研究が含まれている。6件の研究では、母乳強化剤のタンパク質の濃度を高濃度と中等度で比較し、3件の研究ではタンパク質の濃度を中等度と低濃度で比較していた。主な評価結果は、成長(体重、体長、頭囲など)、神経発達、死亡についてであった。すべての評価について報告が不完全であった。すなわち、ほとんどの評価結果についてバイアスのリスクが低値か、不明瞭であった。検索は2019年8月時点のものである。
主な結果
早産児に高濃度のタンパク質を含む母乳強化剤を与えた場合、出生後の入院中に体重はわずかに増加したが、体長や頭部の成長は認められなかった。 中程度の濃度のタンパク質を含む母乳強化剤を与えられた乳児では、低濃度のタンパク質を与えられた乳児と比較して、体重と体長はわずかに増加していた。最初の入院中の乳児の死亡に対するタンパク質濃度の明確な影響はなかった。その他の健康上の評価結果に関するデータは限られており、このエビデンスは母乳強化剤に含まれるタンパク質の量が感染症や摂食・腸の問題のリスクに影響を与えないことを示唆している。退院後の乳児の成長、または長期的な発育については、利用可能な試験データはなかった。
結論
高濃度または中程度のタンパク質濃度の母乳強化剤の使用が入院中の体重をわずかに増加させることと関連しているというエビデンスはあるが、入院後の成長や発達に関連する評価結果への影響についてのデータはなかった。母乳強化剤に含まれるタンパク質の量が長期的に有益か有害かを判断するためには、さらによく設計された試験が必要である。
エビデンスの確実性
いくつかの試験で報告された結果について一貫性がなく、いくつかの試験で実施方法に関連した潜在的なバイアスがみられた。このことから、このエビデンスの確実性は非常に低いか、中程度であった。
《実施組織》大須田祐亮(北海道医療大学)、堀本佳誉(千葉県立保健医療大学) 翻訳[2020.1.12] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD007090》