レビューの論点
著者らは、挿管(気管内へのチューブの挿入)が困難である可能性が高い人を特定するために、明らかな気道異常のない成人における最も適切で正確な迅速スクリーニング試験を探索した。
背景
挿管により、重度の鎮静下、無意識状態下、または麻酔下であっても、患者の気道を確実に確保でき、患者の呼吸は機械(人工呼吸器)で制御でき、手術中、重症外傷後、重症疾患罹患中、または心停止後に、適切なレベルの酸素を投与することができる。挿管困難な気道であることは、生命を脅かす可能性のある状況である。
気管挿管は喉頭展開(チューブ挿入ルートを見るためのミニカメラの挿入)に続いて行われ、高度な技術を必要とし、一般的には何も起こらないものである。約10%の患者で気管挿管困難があり、そういった患者には特別な器具と事前注意が必要である。いくつかの身体的特徴が気道確保困難および挿管失敗と関連しているため、気道確保困難の可能性に警戒することは有用である。気道確保困難のリスクが高い患者を特定するために、いくつかの簡単なベッドサイド検査が日常臨床に用いられているが、これらの検査の精度は不明である。
研究の参加者
著者らは、明らかな気道異常のない16歳以上の成人で標準的気管挿管を受けることになった患者の研究を選択した。
調査中の検査
気道確保困難を検出するために日常的に使用される7つの最も一般的なベッドサイド検査を評価した。これらの検査は数秒のみで完了し、特別な機器は必要としない。
指標となる検査(対象の診断検査)の内容は次の通りである:
-Mallampatiテスト(標準または修正; 可視性を決定できるように、座っている患者に口を開けて、舌をできるだけ突き出してもらうようにお願いする);
-Wilsonリスクスコア(患者の体重、頭頸部の可動性、顎の可動性、下後退顎、反歯を含む);
-甲状オトガイ間距離(下顎と喉仏の上端の間の長さ);
-胸骨オトガイ間距離(下顎と鎖骨間窩の長さ);
-開口検査;
-上唇咬傷検査;
-またはこれらの検査の組み合わせ。
検索期間
このエビデンスは2016年12月16日現在のものである。(2018年3月に新しい研究を検索したが、まだレビューに含めていない。)
研究の特性
著者らは、気道確保困難の検出において、上記7つの検査の正確性を調査した133の研究(844,206名)に加えて、69の他の一般的検査および32の検査の組み合わせを選択した。
主な結果
喉頭展開困難に関して、平均感度(気道確保困難の割合)は22%(開口検査)から63%(上唇咬傷検査)の範囲であった。平均特異度(気道確保困難のない患者に正確に分類された割合)は80%(修正Mallampatiテスト)から95%(Wilsonリスクスコア)の範囲であった。上唇咬傷検査は、検討した全ての検査の中で最も高い感度を示した。
気管挿管困難に対し、平均感度は24%(甲状オトガイ間距離)から51%(修正Mallampatiテスト)の範囲であり、平均特異度は87%(修正Mallampatiテスト)から93%(開口検査)の範囲であった。修正Mallampatiテストは、検討した全ての検査の中で最も高い感度を示した。
フェイスマスク換気困難(気道確保困難の別の徴候)に関して、十分なデータがあるのは、修正Mallampatiテストに対する平均感度17%と特異度90%であると計算するためのものしかなかった。
エビデンスの質
全体として、研究から得られたエビデンスの質は中から高であった。信頼できる結果を提供する研究の尤度は全体的に高かったが、それらの半分では、気管挿管をする医師が以前の検査の結果を知っており、そのことが結果に影響したかもしれないが、こういったことは日常臨床ケアにおけて普通な状況である。患者、検査および状況の特性は、日常の臨床設定の広い範囲で見られるものと同等であった。このレビューの結果は、世界中の見かけ上正常な入院患者における、標準の術前気道評価に適用すべきである。
結論
本レビューで検討したベッドサイドのスクリーニング検査は、気道確保困難である多くの人々を見逃していため、予期しない気道確保困難を検出する目的にはあまり適していない。
《実施組織》 増澤祐子 翻訳、河野圭(明石医療センター 総合内科) 監訳[2020.02.18]
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