レビューの論点
鎌状赤血球症の人が尿中のタンパク質やアルブミン(肝臓で作られるタンパク質)を失わないようにすることを目的とした薬剤の効果に関するエビデンスを検討した。
背景
鎌状赤血球症は、多くの場合、腎臓障害を引き起こす種類の遺伝性疾患である。尿中の蛋白質やアルブミン漏出が多いと、将来の腎不全を強く予測させる。アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤は、尿中のタンパク質やアルブミンの濃度を下げ、腎臓を損傷から守るために投与されることが多い。しかし、これらが鎌状赤血球症の人にどれだけ有効で安全なのかについては、まだよくわかっていない。
検索期間
エビデンスは、2021年8月22日現在のものである。
研究の特性
レビューでは、1件の研究(鎌状赤血球症の成人22名を対象)のみを取り上げ、分析した。参加者は、尿中のタンパク質(タンパク尿)またはアルブミン(微量アルブミン尿)の値が高く、ランダムに選ばれ、カプトプリル(アンジオテンシン変換酵素阻害剤)またはプラセボ(有効な薬が入っていないダミー薬)のいずれかで6ヶ月間治療を受けた。
主な結果
この小規模で非常に質の低い研究の結果は、説得力のあるものではなかった。エビデンスの確実性については、評価したほぼすべての領域でバイアスのリスクが少なくとも不明確または高かったことに加え、不精確さ(結果は幅広い範囲の影響を示した)と間接性(研究には小児が含まれておらず、正常血圧で微量アルブミン尿の成人も少数含まれていた)があったため、判断を引き下げた。この研究では、ACE阻害剤が尿中のタンパク質やアルブミンのレベルを低下させることは示されなかった。血液中のクレアチニン(筋肉のエネルギー産生過程で生じる化合物で、これが高いと腎不全になりやすい)とカリウムの濃度は、試験期間中、一定であったと報告されている。重篤な有害事象は認められなかったが、低血圧を引き起こす可能性があることを強調しておく。複数の施設、より多くの参加者を含んだ、より長期的な研究が必要である。
エビデンスの確実性
結果に偏りをもたらす可能性のあるすべての側面(ランダム化、治療の割り当てを隠す方法、募集されたすべての参加者が分析されたかどうか、計画されたすべての結果が報告されたかどうか、さらに参加者、研究者、結果評価の盲検化など)から、バイアスのリスクが高いまたは不明であると考えられたため、エビデンスの全体的な確実性は非常に低いものであった。また、この研究には子どもが含まれていないため、子どもに対するこの治療法のエビデンスが限られることも指摘した。その効果を統計的に計算したところ、高い不精確性が認められた。ナトリウムについては選択的に報告されている可能性があるが、その他の電解質レベルについては報告されている。とはいえ、詳細な記述のあるデータの量が多いため、このレビューでは限定的な分析しかできなかった。
《実施組織》小林絵里子、阪野正大 翻訳[2022.01.27] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD009191.pub4》