認知障害のない人への認知機能増強のためのL-カルニチン

背景

認知機能とは注意力、記憶力、推論力などの思考能力を説明するための用語である。認知機能の改善を試みるため、また、仕事や勉強の成績を向上させるため、健康な人によってサプリメントや薬剤が使用されることがある。これらのサプリメントや薬剤は向知性薬として知られている。L-カルニチンは食物、特に肉に天然に含まれる成分であるが、体内でも合成され、向知性薬である可能性が示唆されている。L-カルニチンは栄養補助食品として単味で販売されており、複合サプリメントや「エナジードリンク」の成分にも含まれている。本レビューでは、L-カルニチンを摂取している健康な人と偽薬(プラセボ)を摂取している健康な人を比較した臨床試験を検索した。L-カルニチンが認知機能を改善するかどうか、また、副作用と関連しているかどうかを知ろうと考えた。

結果

本レビューに組み入れた試験は2件のみであった。1件の試験では約200名の参加者にL-カルニチンまたはプラセボを3日間投与した。別の試験は参加者がわずか18名で、L-カルニチンの投与も1回のみであった。いずれの試験でも健康な若齢成人が対象で、平均年齢は約21歳であった。これらの試験では認知機能の異なる側面を測定しており、用いた測定法も異なっていた。規模が小さい方の試験ではアブストラクトのみが報告されており、使用可能なデータがなかったが、試験著者は認知機能に対するL-カルニチンの効果に関するエビデンスは得られなかったと述べている。他の試験に関する記述では重要な情報が欠けていたが、測定した認知機能のいずれかにL-カルニチンが有効であるというエビデンスは得られなかった。規模が大きい方の試験でのみ治療の有害作用が報告された。いずれも軽度でL-カルニチン群とプラセボ群での発現率は同程度であった。

エビデンスの質

報告が適切ではなかったため、対象試験の質を適切に評価することは困難であった。試験方法が不適切であるため、深刻なバイアスのリスクが存在すると判断した。さらに、試験がきわめて小規模であるため、結果が不確実であると判断した。また、研究の疑問点に対して適切な回答を得るには試験期間が短すぎると判断した。これらの要因から、エビデンスの質はきわめて低いと判断した。

結論

きわめて質の低いエビデンスがわずかに得られているのみであるため、認知機能に対するL-カルニチンの効果および健康な人に対するL-カルニチンの安全性に関する結論を導くことができなかった。本レビューの疑問点を解明するには、より大規模で質の高い長期的な研究が必要である。

著者の結論: 

組み入れた試験数が少なく、治療期間が短期で、報告が不十分であったため、健康成人における認知機能向上に対するL-カルニチンの有効性および安全性に関して結論を導くことができなかった。認知機能に異常が認められない人の認知機能向上に対してL-カルニチンを検討した、適切にデザインされた大規模かつ比較的長期の追跡期間を設けたランダム化プラセボ対照試験が依然として必要である。

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背景: 

認知機能に異常が認められない人の認知機能を安全な介入によって向上させることは、生活の質の向上や職業上の成功などにつながるため、非常に有益である。L-カルニチンは特定の病態において認知機能を向上させることが報告されているが、その有効性については賛否両論ある。認知機能に異常が認められない人に対するL-カルニチンの有効性に関するエビデンスのシステマティックレビューはこれまで実施されていない。

目的: 

認知機能障害ではない人の認知機能の向上に対するL-カルニチンの有効性および安全性を評価すること。

検索戦略: 

2016年11月4日にALOIS、Cochrane DementiaおよびCognitive Improvement Group's Specialized Registerを検索した。検索語には「L-カルニチン」、「アセチル-L-カルニチン」、「プロピオニル-L-カルニチン」、「ALC」、「PLC」、「ALCAR」または「ALPAR」を用いた。最も最新の結果を入手するため、この他の情報源もそれぞれ検索した。また、同定したランダム化比較試験の参考文献一覧のレビューを行い、試験著者、この分野で知られている専門家および製薬企業に、上記以外の既報または未発表のデータについて問い合わせた。

選択基準: 

年齢や性別が不問の認知機能に異常が認められない人を対象に、L-カルニチンまたはその誘導体であるアセチル-L-カルニチンやプロピオニル-L-カルニチンをさまざまな用量および期間でプラセボまたは無治療と比較したランダム化比較試験(RCT)または準RCT、平行群間試験またはクロスオーバー試験を適格とした。

データ収集と分析: 

コクランの標準的な方法論に関する評価手順を実施した。2名のレビュー著者がそれぞれ試験を選択して方法の質を評価し、組み入れた試験からデータを抽出して解析を行った。

主な結果: 

2件のRCTのみが適格であった。1件は参加者18名のクロスオーバー試験であった。別の1件は400名の参加者を4つの試験群のいずれかにランダム化し、このうち2群(L-カルニチンおよびプラセボ)は本レビューと関連していたが、この2群の正確な参加者数は報告されていなかった。参加者は全員若齢成人であった。試験方法の詳細は十分に報告されておらず、両試験ともバイアスのリスクは不明と判断した。これらの試験では異なる認知機能アウトカムを評価した。1件の試験から約200名分の認知機能データを抽出することができた。L-カルニチンを3日間投与した結果、反応時間、注意力、即時記憶および遅延再生に影響を与えるというエビデンスは得られなかった。この試験報告によると少数の有害作用が認められ、いずれも重篤ではなかった。小規模クロスオーバー試験でも認知機能に対するL-カルニチンの効果は報告されなかったが、データが提示されていなかった。また、有害作用に関する情報が記載されていなかった。報告されたすべてのアウトカムについて、得られたエビデンスの質はきわめて低いと判断した。

訳注: 

《実施組織》M.Walton翻訳 南郷栄秀監訳 [2018.3.31]⏎《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクラン日本支部までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review、Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD009374》

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