細気管支炎とは?
細気管支炎は、(細い)下気道におこる、乳幼児(月齢24か月未満)によく見られる病気である。通常、ウィルス感染が原因となり、咳、速い呼吸、喘鳴などの呼吸障害を引き起こすが、哺乳不良となる可能性もある。これは乳幼児が入院する主な原因の一つである。細気管支炎の治療は対症療法である。つまり、入院が必要な場合は、感染症が治るまで、患児の呼吸を補助することになる。呼吸を助ける方法として、次第に多く採用されるようになっているのは、空気と酸素を混合し、加温、加湿したものを、鼻カニューレ(酸素供給用チューブ)を通じて、従来の(低流量)加湿しない酸素供給の最大流量である毎分2リットルより高い流量で供給する方法である。これは高流量鼻カニューレ療法として知られ、これによって空気と酸素の混合ガスを高流量で快適に供給し、換気を改善しうる。他方、持続的気道陽圧法(CPAP)も細気管支炎の治療に次第に多く使われるようになっている。この療法では、空気と酸素の混合ガスを事前に設定された気圧で供給することによって、気道を開いた状態に保ち、呼気時(息を吐くとき)に虚脱が起きないようにする。
調べたかったこと
高流量酸素療法は、侵襲的な呼吸補助(挿管(人工呼吸)など)の必要性の低減につながりうるほか、上気道の乾燥を防ぐなど、他の治療法より臨床的な利益が大きい可能性がある。本レビューでは、細気管支炎を起こした乳幼児の治療における高流量鼻カニューレ療法の効果を、他の呼吸補助と比べて評価した。
本レビューで行ったこと
16件の研究(参加者2813人)が本レビューの選択基準を満たした。これらの研究で比較されたのは、高流量酸素療法と従来の酸素療法(低流量)または持続的気道陽圧法(CPAP)である。これらの研究の拠点となったのは、世界各地の小児科病棟と集中治療室である。合計2322人の乳幼児を対象に高流量酸素療法と低流量酸素療法を比較した11件の臨床試験と、合計491人の乳幼児を対象に高流量酸素療法とCPAPを比較した5件の研究が見つかった。それぞれの研究について、入院期間、心拍数や呼吸数の変化、臨床スコアの基準、また有害事象の報告件数や侵襲的な治療を施す必要性を比較することに重点を置いた。こうしたデータを分析して、介入方法の間で優劣があったか、また差があった場合、それは統計的に有意な差であるかを判断した。
わかったこと
レビューは、高流量と低流量の酸素療法を比較する研究と高流量酸素療法とCPAPを比較する研究に分けて行った。
高流量と低流量の酸素療法を比較したところ、入院期間や酸素療法を施す期間が短縮されるなど、高流量の方が優れていることを示す差が認められた。
短縮された入院期間は0.65日(15.6時間)で、酸素療法を実施する期間の短縮は0.59日(14.2時間)であった。こうした短縮は僅かで、実地で適用した場合、臨床上有意な影響はないかもしれない。
しかし、高流量酸素療法が優れていることを示す差は、呼吸数や心拍数がより大幅に減少することや、侵襲性の高い治療を必要とする例が少ないことにも認められた。
一方、有害事象(出血や肺の虚脱などの医療事象や医療器具の問題を含む)の発生件数については、高流量と低流量の治療群の間で差はなかった。
すべての研究において、高流量酸素療法は、低流量酸素療法やCPAPと比べてみても、重篤な有害事象は一切報告されておらず、一般に忍容性は高かった。
高流量酸素療法とCPAPを比較する研究は、十分な数がなく、結果を比較したり、統合すること(メタアナリシス)はできなかった
エビデンス(科学的根拠)の限界
高流量鼻カニューレ酸素療法は、呼吸数、心拍数、入院期間、酸素療法の実施期間、侵襲的な治療の必要性を減らす上で、低流量酸素療法より有効性が高い。研究間でかなり違いがあり(異質性)、バイアスのリスクもあることから、これらの結果(評価項目)の多くについて得られたエビデンスには中等度の確信しか持てない。
乳幼児の細気管支炎の治療における高流量鼻カニューレ療法の有効性をCPAPと比較して判定するにはエビデンスが不十分であり、その役割を見極めるにはさらなる研究が必要である。
本エビデンスはいつのものか?
本エビデンスは2022年12月8日現在のものである。
《実施組織》橋本早苗 翻訳、小林絵里子 監訳[2024.07.02]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD009609.pub3》