背景
メラノーマ(悪性黒色腫)は、よくみられる最も危険な皮膚がんであり、早期の診断が治癒への要となる。早期メラノーマ患者が全メラノーマ患者の約70~80%を占め、最初に発生した腫瘍(原発腫瘍)の外科的切除による治療が可能である。しかし、原発腫瘍が進行した状態で発見された場合は、近接するリンパ節(免疫系の一部である腺)や肺、肝臓、骨、脳などの遠隔(原発巣から離れた)部位に病巣が広がる危険がある。この場合、全身化学療法(全身にある細胞を殺傷する薬を投与する)や生物化学療法(インターロイキン-2やインターフェロン-αなど、免疫賦活性サイトカインとして知られる免疫反応を改善する物質を併用する化学療法)が30年以上にわたり主要な治療法とされてきた。しかしこれらの治療法では、少数の患者でしか腫瘍が縮小せず、原発腫瘍からがんが広がっている状態(転移性メラノーマ)と診断されてから5年後に治癒している可能性は10%未満である。
過去数年間、新しいタイプの薬剤が用いられ、有望な結果が得られている。そこで、生存期間、受容性、腫瘍の反応、生活の質(QOL)の観点から新旧の全身療法を比較するほか、それぞれ各治療法を比較するために、転移性メラノーマ患者(AJCC TNM病期分類に基づくステージIV)のこれらに関する転帰を評価した。
レビューの論点
転移性皮膚メラノーマ(皮膚組織のメラノーマ)患者に対する全身療法の効果を評価するために、2017年10月までの該当試験を検索し、122件を組み入れた。
メラノーマに対する従来の化学療法や生物化学療法、および新しいタイプの薬剤による治療(いずれも全身療法)の結果を要約した。新しいタイプの薬剤とは、免疫チェックポイント阻害薬(抗CTLA4モノクローナル抗体および抗PD1モノクローナル抗体:免疫系の抗腫瘍作用を増強する)、低分子性分子標的薬(BRAF阻害薬:腫瘍の増殖を促進する特定のBRAF遺伝子変異を有するメラノーマのみに用いられる。MEK阻害薬:BRAF阻害薬と同じ分子経路に作用する)、血管新生阻害薬(がん細胞への血液供給を減少させる)である。その後、これらの新しい治療法と従来の化学療法とを比較した。
試験の特性
試験122件はすべて、転移性皮膚メラノーマ患者(28,561例)を組み入れ、異なる全身療法を比較したランダム化比較試験であった。試験参加患者は成人男女、平均年齢は57.5歳であった。脳に転移のある患者を組み入れていた試験が29件あったが、脳転移の発見と治療には特有の難題が伴うことが多いため、これらの患者の組み入れは重要である。ほとんどの治療法の比較対象は化学療法であり、試験はすべて病院で実施された。免疫チェックポイント阻害薬、低分子性分子標的薬などの新しいタイプの薬剤を評価した試験では特に、被験薬を開発した製薬会社が資金提供している場合が多かった。
主要な結果
いくつかの治療法で、従来の化学療法よりも転移性メラノーマ患者の無増悪生存期間を改善する可能性が認められた。それらは、生物化学療法(高い質のエビデンス)、抗CTLA4モノクローナル抗体と化学療法の併用(中等度の質のエビデンス)、抗PD1モノクローナル抗体(中等度の質のエビデンス)、BRAF阻害薬(高い質のエビデンス)、MEK阻害薬(中等度の質のエビデンス)、血管新生阻害薬(中等度の質のエビデンス)である。しかし、化学療法薬同士の併用療法(多剤併用化学療法)の間では、差は認められなかった(高い質のエビデンス)。さらに、免疫チェックポイント阻害薬同士の併用(抗PD1モノクローナル抗体と抗CTLA4モノクローナル抗体の併用)は、抗CTLA4モノクローナル抗体単独よりも良好に作用した(高い質のエビデンス)。しかし、抗PD1モノクローナル抗体は、抗CTLA4モノクローナル抗体よりも良好に作用した(高い質のエビデンス)。BRAF遺伝子変異のあるメラノーマ患者では、低分子阻害薬同士の併用(BRAF阻害薬とMEK阻害薬の併用)は、BRAF阻害薬単独よりも良好な転帰につながっていた(中等度の質のエビデンス)。
抗PD1モノクローナル抗体は、標準化学療法あるいは抗CTLA4モノクローナル抗体のいずれかと比較したとき、全生存期間を改善した(いずれも高い質のエビデンス)。化学療法単独と比較して、BRAF阻害薬は、全生存期間を延長した(高い質のエビデンス)。また、血管新生阻害薬と化学療法の併用も、全生存期間を延長した(中等度の質のエビデンス)。しかし、以下のいずれにおいても全生存期間の有意な改善にはつながらなかった;抗CTLA4モノクローナル抗体と化学療法の併用(低い質のエビデンス)、MEK阻害薬(低い質のエビデンス)、複数の化学療法薬の併用(多剤併用化学療法)(高い質のエビデンス)、生物化学療法(高い質のエビデンス)。さらに、低分子阻害薬同士の併用はBRAF阻害薬単独よりも良好に作用した(高い質のエビデンス)。全生存期間に関し、抗CTLA4モノクローナル抗体単独と、抗CTLA4モノクローナル抗体と抗PD1モノクローナル抗体の併用とを比較したデータは入手できなかった。
毒性(重度の副作用の発生率と定義される)について、以下の治療法は化学療法よりも高い毒性に関連していた;生物化学療法(高い質のエビデンス)、抗CTLA4モノクローナル抗体(中等度の質のエビデンス)、多剤併用化学療法(中等度の質のエビデンス)、MEK阻害薬(中等度のエビデンス)。それとは対照的に、抗PD1モノクローナル抗体は化学療法単独よりも忍容性が良好と考えられる。抗PD1モノクローナル抗体はまた、抗CTLA4モノクローナル抗体よりも忍容性が良好と考えられた。しかし、これらの知見を裏付けるエビデンスの質は低いと評価された。さらに、副作用の頻度に関し、以下の比較において有意差は認められなかった。抗PD1モノクローナル抗体と抗CTLA4モノクローナル抗体の併用と抗CTLA4モノクローナル抗体単独(低い質のエビデンス)、血管新生阻害薬と化学療法の併用と化学療法(低い質のエビデンス)、BRAF阻害薬と化学療法(低い質のエビデンス)、BRAF阻害薬とMEK阻害薬の併用とBRAF阻害薬単独(中等度の質のエビデンス)。
試験では直接比較されなかった治療法間の比較解析も行った。これをネットワークメタ解析という。無増悪生存期間に関する転帰について、得られた中で最良のエビデンスのみに着目したところ、以下の結果が見出された(エビデンスの質は中等度が最高であり、以下の結果は推測の域を出ないことに留意されたい)。
・免疫チェックポイント阻害薬同士の併用および低分子性分子標的薬同士の併用は、いずれも化学療法よりも良好であった。
・BRAF阻害薬および低分子性分子標的薬同士の併用は、いずれも抗CTLA4モノクローナル抗体よりも良好であった。
・生物化学療法による転帰は、BRAF阻害薬よりも不良であった。
・低分子性分子標的薬同士の併用は、抗PD1モノクローナル抗体よりも良好であった。
・生物化学療法およびMEK阻害薬のいずれによる転帰も、低分子性分子標的薬同士の併用よりも不良であった。
・生物化学療法による転帰は、免疫チェックポイント阻害薬同士の併用よりも不良であった。
毒性に関する転帰について、得られた中で最良のエビデンスのみに着目したところ、以下の結果が見出された(ここでもエビデンスの質は中等度が最高であった)。
・免疫チェックポイント阻害薬同士の併用による転帰は、化学療法よりも不良であった。
・免疫チェックポイント阻害薬同士の併用による転帰は、BRAF阻害薬よりも不良であった。
・免疫チェックポイント阻害薬同士の併用による転帰は、抗PD1モノクローナル抗体よりも不良であった。
・生物化学療法では、免疫チェックポイント阻害薬同士の併用よりも良好であった。
以上の結果から、BRAF遺伝子変異のあるメラノーマ患者では、少なくとも無増悪生存期間に関し、低分子性分子標的薬同士の併用(BRAF阻害薬とMEK阻害薬の併用)が最も有効な治療戦略であることが示唆される。しかし、BRAF阻害薬とMEK阻害薬の併用は、抗PD1モノクローナル抗体による治療を受けた患者に認められた影響と比較すると、重度の毒性の発生率が高いという難点がある。抗PD1モノクローナル抗体は、全メラノーマに使用可能であり、忍容性は最高ランクである。
今回得られた結果を確かめるには、特に患者の全生存期間に着目し、ランダム化試験後も長期にわたり解析していく必要がある。
エビデンスの質
GRADEに基づく評価の結果、全生存期間、無増悪生存期間、腫瘍縮小、毒性の4項目のうち前者3項目の転帰に関するエビデンスのほとんどが中等度~高い質であると示された。エビデンスの質を下げた要因は、一部の比較試験で症例数が少なかったこと、試験間の相違、試験に関する報告が不十分であったことであった。
《実施組織》一般社団法人 日本癌医療翻訳アソシエイツ(JAMT:ジャムティ)『海外癌医療情報リファレンス』(https://www.cancerit.jp/)八木佐和子 翻訳、東光久(福島県立医科大学 白河総合診療アカデミー)監訳 [2018.06.02] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクラン・ジャパンまでご連絡ください。 なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review、Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。《CD011123》